アルルナダイアナSSログ



『金木犀と金平糖(アルルナ)』


よく晴れた日の午前中、ルナはアルテミスと散歩をしていた。

「いい散歩日和ね、アル」
「そうだな。漸く過ごしやすくなった」

やっと外に出て散歩が出来るようになったとアルテミスもルナも嬉しく思っていた。
近年の夏は暑いのが好きな猫でも堪える程の暑さで、ルナとアルテミスも例外ではなく、引きこもり生活を送っていた。
アルテミスは美奈子の部屋で、ルナはうさぎの部屋でクーラーが効いた所で快適に過ごす日々だった。
しかし、そのお陰で身体はなまってしまい、漸く暑さが引いたこの日、二匹は散歩と言う名の外出する事になった。

「気持ちいいな〜、ルナ」
「夏の暑さの後だから余計に爽やかよね」

何処に向かうでも無く、あてもなく歩きながら二匹は久しぶりの散歩を楽しんでいた。
ルナのたっての希望で地面ではなく、猫の姿で塀を伝って歩いている。
かつてルナは何度か悪ガキに捕まり、酷い虐待を受けていた。その事が未だに頭を離れない。アルテミスがいるからとか、人間になれるとかを差し置いてもその事は恐怖でしかない。
今は平日で学生は学校に行っている。安心のために午前中を選んだのだが、いないとも限らない。

「ルナは俺が守るから、大丈夫だよ!」
「アル……」

警戒しているのが読み取れるのか、アルテミスは先を歩くルナにそう声をかけられる。
嬉しいが、アルテミスだってそんなに強い訳じゃない。
振り返り、アルテミスの顔を見て少し微笑み大丈夫だと合図を送った。
と、その時だった。

「スンスン……良い匂い〜」

爽やかな風と共に、ルナの鼻腔を甘い匂いが届いた。
匂いの元は、とルナはキョロキョロと首を動かし、少し先の家の木に咲く花に目が止まった。
そして、先程までの警戒心はどこへやら、軽快にその木に向かって走り出した。

「あ、ルナ!?ちょっと待って!」

スタートダッシュが早いルナに、完全に置いてけぼりを食らってしまったアルテミスは慌ててルナを追った。

「ル、ルナ、どうしたんだよ?」
「金木犀よ、アル!いい匂い〜」

息を切らせながら追いついたアルテミスをルナは、慌てて来た方向を見上げた。

「もうそんな時期か……」

この前まで暑い夏かと思っていたら、金木犀が満開になるほど秋が深まったのかとアルテミスは驚いた。

「いい匂いだな」
「金木犀の香り、好きだけど切なくなるわね」
「ルナ……?」

季節の変わり目に咲く花で、開花が短いと言う事を差し置いてもルナの顔を見るともっと別の違う深い理由がある事が分かる。
もしかして、キンモク星から来たアイツらを思い出しているのだろうか?
そういえばあの三人も彗星の如く現れ、流星のように早く消え散って言ったなとアルテミスは思いを馳せた。

「スターライツのことか?」
「へ!?」

意を決して聞いてみると、素っ頓狂な返答が返ってきた。違ったのか?

「ほら、キンモク星人だろ?」
「ああ、彼女たちは確かにそうね」

クスクスとルナは可笑しそうに笑った。

「私は金平糖と似ているなって」
「は!?」

ルナの斜め上の答えに、今度はアルテミスが素っ頓狂な声を出す番だった。
金平糖とどこがどう似ているのだろう。さっぱり分からない。

「似てないのは分かるんだけどね?」

理解されないのは十分承知でルナは話し始めた。

「少し形が似てる気がするの」
「形、ねえ……」
「いい匂いがするのも似ているわ」
「そこは何となく分かるな」
「後、二つとも金色じゃないのに“金”と言う字が当てられているでしょう?」
「ああ、確かに」
「だから、何か切なくて……」
「ルナ……」

金木犀に金平糖を重ね、ルナは苦しそうにしている。その姿を見たアルテミスもまた、胸が締め付けられる思いだった。
きっと初恋のあの人ーー大空翔の事を思い出しているに違いない。
初めから叶わぬ恋だった。しかし、ルナはその恋に全てを捧げ、献身的に彼に尽くした。
想いを伝える事無く、その想いに蓋をしたが、やはり辛い思い出なのだろう。

「俺がいるよ、ルナ」
「アル……」

何も聞かず、ただただアルテミスはルナに寄り添った。
今度こそルナを支えたい。辛い時には絶対に傍にいたいと思った。
そんなアルテミスの想いが伝わり、ルナも何も言わず金木犀の木を見上げながら、アルテミスに甘えた。




おわり

20241018 金木犀開花記念🤣


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