アルルナダイアナSSログ
『月の綺麗な夜に』
ルナは、月を見上げて物思いにふけっていた。
今宵は満月。それも中秋の名月という一年に一度の特別な満月の日だ。
そんな満月をルナは猫の姿で月野家の屋根に登り、見つめていた。
「月が綺麗だわ」
一年に一度の特別に輝く月を見つめてウットリとしてルナは呟いた。
「ルナには適わないさ!」
「アル!?」
一人で見ていたのだが、アルテミスから声をかけられ驚いた。声が聞こえた方向へと顔を向けると、そこには同じく猫の姿のアルテミスが微笑んでいた。
「どうして?」
「ここにいるだろうなと思ってさ」
ルナの事ならお見通しと言わんばかりに笑顔でウインクをした。
「やっぱりいたし、猫の姿だ」
「アルも猫の姿じゃない」
「ルナが猫の姿だと思ったから」
屋根に登るなら猫の姿が一番だと言うのも理由の一つだが、ルナと一緒がいいとアルテミスは思っていた。
「やっぱり月に帰りたいか?」
「そうね、変わらないわ」
月を見つめる姿を見たアルテミスは問うた。
「そうか、いつ移住するんだ?」
「具体的には考えていないけれど、うさぎちゃんがクイーンに君臨するタイミングかしら」
「しなければ?」
「うさぎちゃんが衛さんと結構した直後かしら」
「なるほど、どちらもいいタイミングかもな」
クイーンとなるならば22歳との話だった。
ならないのならば結婚するとすれば、もう少し遅くなるだろう。
だが、どれもタイミングとしては適当だとアルテミスは思った。
「後、何年かしら?」
早く帰りたいと呟き、瞳からは光るものが、と思った瞬間だった。それは突然起こった。
「ル、ルナ!」
「え?」
「その姿は……!?」
「人の姿に戻ってる?」
そう、ルナは人の姿に戻っていた。
そしてそれは、アルテミスも同じだった。
「どうして?願ってないのに……」
猫と人間、願えば自由自在に変化は出来る。
だが、ルナは滅多に人間になろうとしない。
今もそんな事望んでなどいなかった。
「満月……だから、かな?」
満月の月の力が人間の姿へと変化したのだろうとアルテミスは推測した。
いつだって月の神秘の力はルナを人の姿へと変えてきた。
メタリアとの最終決戦時の祈り、スーパーセーラームーンからの銀水晶と聖杯の力、そしてネヘレニアとの戦いの後の戴冠式。
これだけ月の光を浴びているのだから、身体に変調があって当たり前だとアルテミスは考えた。
「……どうしたって私もアルも人間なのよね」
「ルナ……」
人間である事実がルナを苦しめた。
猫の姿になったのは月に来た日、クイーンの力で猫になった。それが月の住人としての証のような気持ちになっていた。
それからはずっと猫の姿で過ごしていた。
自分は猫だと思っていたし、思い込んでいた。
月が滅びてクイーンによってコールドスリープし、来たる時まで40億年以上猫の姿だった。だからこそ猫だと思っていたのだ。
「俺、人間のルナも綺麗だから好きだけどな」
「アルったら!」
「ルナは?人間の自分は嫌い?」
「そんな事ないけど、月の住人じゃない気持ちになって少し悲しくなるの」
「姿形なんかどうだっていいじゃん!大事なのは気持ち、だろ?」
「……そうね」
暗い顔をしていたルナだが、アルテミスから諭され、笑顔が戻った。
「……ダイアナは元気かしら?」
「ちびうさと未来で頑張ってるさ」
「早く会いたいわ」
「じゃあ、早く会えるように俺たちも今宵、さ?」
ルナの横に腰掛けていたアルテミスは、ルナの顔に近づいた。
満月は、男を狼に変化させる。猫と言えどアルテミスも男だ。
そんな満月が美しい秋の夜だった。
おわり
20240917 中秋の名月