その金平糖はとても苦い


side アルテミス



ルナが恋をしていると知った。
相手は僕じゃなかった。
とてもショックだった。
どうして僕じゃないんだ……。
何故僕じゃダメなんだ……。
とても辛い。
現実を受け入れられない。

いや、分かっていたことだった。
僕が一方的にルナを好きだっただけーー。
月の王国があった時からいつしか彼女に想いを寄せていた。
それは現世(この時代)に目覚めても真っ先に思い出した確かな温かな気持ちーー。
そして合流して彼女に久しぶりに会ったあの日に宿った愛しい想い。
変わらず僕はルナが好きだという確かな気持ち。
きっとこの想いは普遍的で変わらない気持ちだ。

前世から彼女は仕事熱心で使命感に燃えていて、恋愛とは無縁だった様に思う。
そして現世でも、前世と変わらず手のかかるお姫様のお世話と次から次へと現れる敵へのリサーチや作戦に忙しくしていて、再び出会ってからもそんな気配は微塵も無かった。
近くでずっと見ていたからルナの事はよく分かっているつもりだ。

いくら近くにいる異性だからと言って僕を好きになってくれるなんて都合よく思ってなかったし、好きになってもらう為の努力も何にもしていなかったのだから、違う男の人に惹かれるのは当然だし、仕方の無い事だ。
ルナの気持ちを縛る事なんて出来ないのは当たり前の事で、僕がとやかく言える立場にはない。
だけど、とても苦しい。

「アンタが手抜きしてるからいけないのよ!」と美奈にズバリ言われてハッとした。
もっと分かりやすくアピールするべきだったのではないかと後悔先に立たずだ。

「30世紀の未来でいくら結婚してダイアナちゃんって子供までいるからってアグラをかいてるよーじゃダメね!未来なんていくらでも変わるんだから」

全くもってその通り過ぎて更に落ち込んだ。
そう、美奈が言う通り確かに僕とルナは未来でダイアナと言う子供をもうけている。
だけど、その未来が今僕達が全うして辿り着ける順当な未来とは限らない。別次元の可能性だって大いにある。
今の世界線でルナと付き合えてダイアナを儲けられるなら儲けものだけど、それにはやはりもっと積極的にルナにアピールしないといけない。

否応なしに突き付けられる現実に、今まで向き合ってこなかった問題と向き合う時が来たのだと思った。
辛い現実だけど僕にはどうする事も出来ない。
黙ってルナの恋を見守るしか無かった。

黙って見守るも結構キツい。
ルナの嬉しそうな顔や辛そうな顔、今まで見たことの無い恋するルナの色んな顔を見る度に胸が苦しい。
僕に向けられた事のない顔を見る度に辛くなる。

「アルテミス、辛いな……」

唯一の男性の衛が僕を気遣って声をかけてくれた。

「衛……俺、本当にルナが好きなんだ」
「ああ、そうだな」

辛い胸の内を吐露している間、衛は何も言わず優しく聞いてくれた。

「今は見守るしかないのかな?」
「ルナも苦しんでるとうさが言ってた。相手には彼女がいるみたいだ」

人間に恋した時点で失恋は決定事項だったけど、それでもルナは想い続けて、結果苦しむ事になってしまったようだ。

「ルナがいつでも頼れる様にしておかないとな」
「アルテミスは強いな。俺なら、俺がアルテミスの立場ならとっくに心壊れてるよ。うさがいないと俺は生きていけないからな」
「強くなんか無いなよ。そもそも俺達、始まってもないんだぜ?俺が勝手に、一方的にルナを好きだっただけで、何も努力して来なかったのがいけないんだ」

今までなんの努力も無くあぐらかいて余裕ぶっこいてたからツケが回ってきたんだ。
もっと努力しろ!って事なんだと思う。
人間の言葉を操る猫なんて地球上探しても俺とルナの2人だけだからなんの努力もしなくとも自然とそうなると何処かで勝手に思い込んでいたのだと思う。
でも今回の件でそれは幻想だと思い知ったし、やはり努力が必要なのだと学習した。
そう、全ては自身が招いた結果だ。自分で何とかしないといけない。

気の引き方なんてどうすればいいかなんて正直ちんぷんかんぷんで分からない。
だけど取り敢えず今ルナが一番好きで食べてると聞いていた金平糖をいっぱい買ってみた。
喜んでくれるといいなと思ってルナにあげると、泣かれてしまった。
まさか泣くと思ってなかったからうろたえてしまった。
ルナが悲しいなら俺も悲しい。泣きたい。
ルナの為に一緒に泣いてあげたいと思った。
泣いているルナを笑顔にしたいとも思った。
元気づけたいと思って自分なりに励ます言葉を咄嗟にかける。
ルナに元気と笑顔が戻っていつものキレの調子が出る。安心してホッとした。


「アルテミス、大丈夫か?」
「好きな人が違う人に気持ちが向いてるなんて、辛いわよね?」
「胸が締め付けられる想いよね……」

外部の3人にまで心配される始末。
俺、そんなに辛そうな顔してるのか?
と言うかこんなに皆に知れ渡ってるのか?
まぁダイアナがいるからか。

「3人とも、心配してくれてサンキューな。嬉しいよ」

率直に礼を言う。
所詮、なる様にしかならない。
そっと見守る他ないんだ。

「アルテミス、元気だしな!」
「頼りにしてるわ、アルテミス」
「私たちがいるからね!」

まことも亜美もレイも優しく声をかけてくれた。
こんな時でも容赦なく敵は襲ってくる。
いや、こんな時だからこそやるべきことがある事が俺にとっては良かったかもしれない。
忙しくしていた方が気が紛れて余計な事を考えなくて済むから。
お陰で敵を倒すまで調べたり策を練ったり忙しくしてたお陰で気が大分紛れたし。

ルナの方も戦いが終わったと同時に恋の決着を、ケジメを付けてちゃんと失恋してきたみたいだった。
スッキリした顔で月野家に帰ってきた。
僕はそんなルナを優しく何も言わず受け入れた。
ルナがケリをつけてる間中待ってたから雪まみれになってしまったし、寒かったけど、ルナの方がきっともっと寒いと思う。
何でも無い顔してるけど、きっと心の中では泣いているに違いない。

どんな時も強く、決して涙を見せない君の代わりに僕が泣いてあげたいと思った。
これからルナとどうなるかなんて正直分からないし、自信はないけど、これだけは言える。

“どんな事があってもこれから先も僕はずっと変わらずルナが好きだ”って事。



『未来は幾らだって変わるんだから』

そう言って叱咤激励してくれ、何だかんだ応援してくれる相棒の愛の女神の言葉を胸に、これから先も気を抜かず、ルナを愛し続けよう。

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