あなたへ誓う気持ち


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両親の墓参りを終え、次に来たのはブライダルショップ。

前世の記憶を徐々に取り戻していた私は、その中で地球国の王子エンディミオンの側近、四天王の一人、ネフライトに恋心を抱いていた。
それを思い出した私は、現代で彼をこの手で殺した場所へと向かった。

いつでも来られる場所だけど、あれ以来来れていなかった。
怖かったとか、嫌だったとかそんな理由では無くて。ただ単に来る必要が無かった。後、単純にブライダルショップに用事がない笑。

「ネフライト……」

倒した辺りに立ち、両親の時と同じく返事が無いと分かりながらも話しかける。
両親とは違い、お墓なんてものは無いからその辺りに、ここに来るまでにあったフラワーショップで買ってきた花を手向ける。

サルビアとベルガモット。花言葉はサルビアが知恵、ベルガモットが安らぎ。

前世で地球国の王子の側近、四天王として勤めていた時の騎士の称号だ。
互いの主の逢瀬で護衛していた時に直接教えてくれた。

「この花、好きだったろ?……って現世でもそうだったかは分からないけど」

あの頃はこの花の名前を教えてはくれなかった。その代わり、花言葉は嬉しそうに教えてくれた。
ダークキングダムとの戦いを終えた後、ネフライトとの記憶が蘇ってきてすぐに花言葉を頼りに自力で調べた。

ふと前世のネフライトしか知らない事に気付き、漠然とする。
無理も無い。現世では出会っていきなり戦士になり、そのままの勢いで倒したんだから。

いや、前世のネフライトも詳しく知っていたかどうか。今では怪しい。

「殺した事、恨んでるか?」

恨んでない訳、無いよな。
前世でも今も、アイツは妖魔でも何でもない。普通の人間なんだから。

「何で?どうして、裏切ったんだ?」

前世でのあの裏切りがなければ、月は滅びなかった。みんなが幸せに生きられた。

いや、裏切りが無くてもいつかは月は滅びていたかもしれない。考えても仕方ない。
お互いの主が神の掟を破って恋をしている時点で、神の裁きは動いていたんだろうな。

「好きだったよ、すっごく……」

前世では決して言えなかった言葉を声に出して呟く。
漸く言えた告白に、気付けば涙が頬を伝っていた。

こんなにもネフライトの事が好きだった事に自分自身も驚きを隠せないでいた。
戦士になっても思い出しもしなかったばかりか、この手で殺したのに……。
それが今になって苦しくなる。

「殺した事、後悔はしてない。けど……」

戦士としては正しい事をした。頭では分かっていても、乙女としての心は何で殺してしまったんだろう。何故殺さなきゃいけなかったんだろう。そう苦しんで対峙していた。

途方もない長い時を過ごしてきた前世。その中で思い出すのはネフライトの事ばかりで……。

良く、失恋の痛みは時間が治してくれる。なんて言うけど、ネフライトとの事もそうなるだろうか?

先輩の方はこっちに来て戦士をしている中で自然といい思い出にはなったけど……。

「現世でのお前とも話してみたかったな……」

現世でも裏切った理由を是非教えて頂きたい。なんてな。

「衛、いや、王子エンディミオンの事は私たちに任せとけ!気になってたろ?私たち四守護神の名にかけて、お前たちの“マスター”も、うさぎと一緒に命かけて守ってやっから!」

流れる涙はそのままに、新たな決意を表明する。
きっと、気がかりがあるとすれば王子を残して死んだ事。
前世に続き、現世でも記憶を持たぬまま裏切って、挙句に思い出さずに死んで行った。心残りだろうと思った。
誰より近くで王子を想うネフライトを見てきたから。
そして、私がネフライトの立場なら、絶対王子を残して死んでしまったこと、後悔してたから。
それに、私もうさぎに対してこれから先、こんな気持ちになるって分かってるから。
そんな私だから、ネフライトの気持ちは痛いほど分かる。寄り添える。
そう思って約束するに至った。

最後に手を合わせて長めに祈る。

「また来てやるよ。衛の事、聞きたいだろ?」

約束をして立とうとしたその時、雨が降ってきて、冷たく身体にあたる。
少量だと思って、そのまま拝み続けると、いきなり雨が当たらなくなった。
驚いて顔を上げると傘が差し出されていた。

「美奈?」
「まこちゃん、濡れてるわよ?大丈夫?」

傘をかけてくれたのは美奈だった。

「大丈夫、大丈夫!美奈こそ大丈夫なのか?」
「大丈夫よ」
「なんの事か分かってる?テスト勉強のことだけど……」
「あはははははは」

これは諦めたな。そう悟った。
まぁ私も人のことは言えないけど……。

「こんな所で何してたの?」
「ん?昔の男とちょっとな」
「ネフライトの事?」
「どうして……?」

美奈には話して無かったはず。
私より早く戦士をしているから、もしかして前世の事、色々思い出しているのかな?

「リーダーで愛の戦士だもん!何でもお見通しよ」

彼女お得意のウインクに右手をVサインで愛嬌たっぷりに答える美奈。

「何でも話聞くわよ?」
「ありがとう。ネフライトをこの手で殺したんだよな、私」
「好きな人を自分の手で殺すのはシンドいよね」

雨の中、家へ帰る為に歩きながら会話をする。

「ああ、キツかったな……」
「まこちゃん……。よぉし、ガールズトークするわよ!今日はとことん語らいましょう。まこちゃんの誕生日だしさ♪」
「いや、美奈。テスト勉強したくないだけだろ?」
「バレちゃったか?」

美奈が私を気遣ってくれるのは単純に嬉しい。

「こら、美奈。私を現実逃避に使うな笑」

これは結構長くなって、テストはお互い赤点覚悟だな、なんて思った。




おわり


20211205のまこちゃんの誕生日に投稿したものです。

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