愛と勇気のチェリーパイ
ーーそして更にそれから十年以上経った未来。
「わぁ〜、美味そう!いっただっきまーす!」
「おい、小童!何、ジュピターの菓子、我先にと食ってやがんだ?」
ジュピターの部屋に入るとお菓子を見つけたジュノーが食べようと手を伸ばした。そこにネフライトが到着し、手癖の悪さを指摘する。
「げっ!ジュピター様の磁石……」
「誰が磁石だ!俺は四天王が一人、ネフライトだ。ったく、俺への敬意が全然ねぇな!」
「ふんっ!敬意なんてゴミ箱に丸めてポイだ!」
「口が減らねぇ奴だな。誰の権限でジュピターの菓子食ってんだ?」
「ジュピター様が良いって言ってくれたんだ!」
四天王のネフライトに向かってジュノーはいつも敬語を使わない。
ジュノーから見たネフライトは威厳がなく、常にジュピターに隙あらばスキンシップをしてベタベタ。所構わず愛の言葉を囁く。
そんな姿を見せられ、どうやって尊敬しろと言うのかと、ネフライトにも周りにも度々目上の人への言動がなっていないと注意を受けるが、本人は悪いとは全く思っていない。
それどころか、尊敬出来るような態度をとってみろと言い返す始末。他の四天王の様にちゃんとした態度をとって示して欲しいと思っていた。
ネフライトはネフライトで人扱いされないので、ジュノーを小童呼ばわりしていた。
お互いのそんな言動が更に関係を拗らせている原因である事を頭の悪い二人は気付けない。
「ああ!しかもそれ、俺のために作ってくれた奴だろ!お前は食うな!」
「自惚れもいいとこだ。俺も食う!」
「それ、チェリーパイだろ!俺とジュピターの思い出の菓子だ!」
チェリーパイを巡って醜い争いが始まろうとしたその時、席を外していたジュピターが戻って来た。
「二人とももう来てたのか」
「マイハニー♡」
「ジュピター様、このチェリーパイはコイツのために作ったんですか?」
「みんなに食べてもらいたくて焼いたんだ」
二人の心、ジュピター知らず。
みんなと答えたジュピターは笑顔を崩さない。
「チェリーパイは俺とジュピターの絆だろ?」
「ああ、そうだな」
「俺のだよな?」
「勿論、ネフライトも食べな」
「うう、ジュピター……」
「くくくっ」
ジュピターとネフライトのやり取りを聞いたジュノーは、ジュピターに上手く転がされているなとお腹がよじれる程笑いを殺す。
「チックショー!!!」
自分だけの為に作られた訳では無いと知ったネフライトの悲しみは計り知れないものだった。
雄叫びを上げながらジュピターが作ったチェリーパイを爆食して行った。
食べ終わると特別な日ーーつまり自身の誕生日やクリスマスに自分の為だけに作って欲しいと頼むことを取り付けた。ジュピターは笑顔で快諾していた。
おわり
20240312 スイーツの日
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