愛と勇気のチェリーパイ
ーー時は流れ現代。
まことは勇人を初めて家へと招く日がやってきて、ソワソワしていた。
異性を家に上げるのはこれが初めての事では無いが、恋人を呼ぶ経験がないまことは落ち着かない。
時計を見ると、そろそろ来る時間だ。
ピンポーン
力強く呼び鈴が鳴る。
「いらっしゃい、勇人」
「お邪魔します♪」
玄関を開けると勇人が立っていた。まことが姿を現すと、自然に軽く抱きしめられ、まこともそれに応えて抱き締め返す。まるで新婚夫婦の様な雰囲気だが、まだ付き合って間も無い初々しい時期だ。
「さあ、入って!」
雰囲気に流されるところだったまことだが、体を離して入る様に促す。
まことに言われ、勇人は初めてまことの家の中に入っていく。
「うわぁ、ここがまことの家か。すげぇな〜」
「よせよ、恥ずかしいだろ!」
マジマジと部屋を物色する勇人を見て、まるで自身の裸を見られているかのような恥ずかしさに駆られて照れてしまう。
「流石、綺麗にしてるなぁ~」
「一人暮らしだから、だらけてしまうと終わりだしな。気をつけてるよ」
「育ちの良さが出てるんだと思うぜ」
「褒めても何も無いぞ」
「いや、マジだって!俺なんて部屋、汚ねぇもん」
「威張って言う事かよ」
「The男の部屋って感じだぜ」
「そりゃあ見てみたいな。片付けてやりたい」
「じゃあ次は俺の家な!」
「でも、一人暮らしじゃないんだろ?」
「ああ、でも日中は両親共働きでいねえし、兄弟も学校で滅多にいねえから」
そんな会話を繰り広げつつ、目的のリビングへと案内しやって来た勇人は、そこにあるソファーへと腰掛ける。
「くつろいでくれ」
「ああ」
まことは台所に行き、予め用意していたスイーツを冷蔵庫から取り出し、コーヒーを入れて、勇人に持って行く。
テーブルの上に置くと、それを見た勇人の顔色が変わった。
「これ、ジュピターが得意だったチェリーパイじゃねえか」
「覚えててくれたのか?」
「ったりめーだろ!忘れるわけねぇよ!」
前世、ネフライトの悩みを解決する為に作ったチェリーパイを勇人に出す。勇人は懐かしさに嬉しさを隠しきれないでいた。
まことは一か八か。初めて勇人が家に来たら絶対にこれを作って出そうと付き合い始めた時から決めていた。
「俺たちの思い出のチェリーパイ。すげぇ懐かしいな……」
勇人は感慨深そうに呟いた。
「いつから思い出してたんだ?」
「ん〜、蘇って割とすぐ?まことは?」
「ダークキングダムとの戦いが終わって暫くしてかな?でも、このタイミングで出そうと思ったのは最近」
「そうか、俺のために。サンキューな、まこと」
「いや、いっぱい作ったからいっぱい食ってくれ」
「じゃあ、遠慮なく。頂きます!」
自分だけの為に作られた46億年振りに食べるジュピター、いや、今はまことのお手製チェリーパイを勇人は口に運んだ。
うん、この味だ。変わらない。と言いながら勇人は作られた分だけ全部食べて完食したのだった。