現世ネフまこSSログ


『鐘が鳴り響く頃には(ネフまこ)』


「まこちゃん、どうだったの?彼氏と大晦日、楽しんだんでしょう」

年が明けて新学期の登校の日、新年の挨拶もそこそこに美奈子はまことに質問をした。どこか、楽しそうだ。

「ああ、うん」

楽しそうな美奈子とは裏腹に、まことは歯切れが悪く浮かない顔をしている。
そんなまことにいち早く察知した美奈子は疑問に感じる。

「まこちゃん、どうかした?」
「ああ、いやぁ……」
「まさか、喧嘩?」
「いや、そうじゃないよ」
「じゃあ何?デート出来なかったの?」
「違うんだ」

何故か言い出しにくそうなまことは、中々話してくれない。一体、どうしたのだろうと美奈子は心配になる。

「実は……」
「うん?」

漸く話そうと意を決して重い口を開けるまことに、美奈子は耳を傾ける。

「お寺を出禁になっちゃって……アハハハハ~」
「え?」

勇人と何かあったのではないかと言う予想とは違い、思っていた答えでは無く美奈子は思わず素っ頓狂な声で驚く。

「出禁って、どうゆう事?何で、そーなったの?」

美奈子の疑問は当然だ。
寺を出禁になる、など聞いたことがなかったからだ。

「それが……」

まことは大晦日の事をゆっくりと話し始めた。

それは、大晦日での事。まことは勇人と付き合って初めての年末年始を迎えていた。日々恋人としたい事が増えて行く。
カウントダウンの瞬間を一緒に迎えると言うのもその一つ。クリスマス前から楽しみにしていた。

そして当日。勇人と共に除夜の鐘を鳴らしに行った。二人で叩く棒を持ち、一緒に鳴らしたのだが、二人共力持ちだと言う事を忘れていた。
思いの外、と言うより予想より大分大きな音が鳴り響き、その場にいた全員の鼓膜が震え、敗れる勢いだったらしい。
更には、当然ご近所にも響き渡り、除夜の鐘のレベルでは無い大きな音に苦情が殺到。

「二人で力み過ぎちゃったみたいでさ、近所迷惑だからもう来んなって言われちまって。アハハハ」
「えええ?」

規格外の大きさだったのだろう。お寺のご住職ですら聞いた事のない大きな音だったようで、仕方なくの苦渋の選択だった様だ。
説明をするまことの顔は、引き攣り笑いをして照れていた。

「どんだけ力んだのよ?二人共怪力なんだから、気をつけなよ」
「いやぁ、つい」

忘れていた訳では無いが、ついうっかりしていた。

「それと、後もう一つ」

重い口を開き、まことはもう一つあった事を吐露し始めた。

「他のお寺にも行ったんだ」
「お寺、ハシゴしたんだ!凄い!」
「そこでは鐘を割った」
「は?」

まことも勇人も一つでは飽き足らず、もう一つ近場のお寺に除夜の鐘を鳴らしに行った。そこでもやらかしてしまったのだ。
力を入れ過ぎない様にとお互い気を使ったにも関わらず、力の加減が分からなくなり、結果として鐘が割れてしまった。

「そこのお寺も、当然出禁さ」
「いや、どんだけ怪力なのよ」

相槌を打ちながら聞いていた美奈子は、呆れてしまった。二人が怪力とは理解していたが、まさかこれ程とは、と。

「敵に回したくないわぁ」

美奈子は心底思った。味方でよかったと。
心の中の声がつい漏れてしまった。

「でも、散々だったわね。せっかく張り切ってたのに」
「まぁね。でも、いい思い出さ」
「ま、まこちゃんがそう言うならいいけどさ」

浮かない顔から一転、まことの顔は晴れやかでいい笑顔だった。




おわり

20240104

16/17ページ
スキ