美味いものを食うぞ!


一段落着いた勇人は、ご飯を飲み込みまことに真剣な表情で言葉を切り出した。

「まことさぁ、栄養士の資格を取ってみたらどうだ?」
「へ?急になんだよ?私の夢は知ってるだろ?」

考えてもいなかったことに、まことは困惑する。
夢は他にある。それを、勇人も知っていて、応援してくれていた。なのに、出てきた言葉は意外な進路を示していて……

「勿論、知ってるさ!パティシエや花屋も立派だ。まことらしい。合ってると思う。けど、これだけ美味い料理作れるのにさ、生かさないのって単純に勿体ないと思うんだ」

それだけじゃない。栄養士は国家資格だ。取っておけば、食いっぱぐれしない。どこでも働ける。
そう勇人は力説した。
そしてもう1つ。

「俺ばっか美味いまことの手料理を独り占めするのもいいけど、もっと色んな人にも食べて欲しい。食べさせたい!」
「勇人……」

余りにも真剣な眼差しで力説する勇人に、自分のためを思ってくれているのが伝わって来て、胸が熱くなる。

「ま、今すぐ答えだせとは言わない。じっくり考えればいいさ。偉そうに提案したからには協力は惜しまないぜ!」

それは、暗に全部面倒見るという意味が含まれていた。

「興味はあるけど、勉強するのはなぁ……」

まことの不安は、勉強が苦手な事。寧ろ、迷いの全てはこの一点に限る。
それ程勉強嫌いのまことは、国家資格なんて難しい資格取れる気がしない。

「ははは、そこだよな?でも、好きこそ物の上手なれって言葉あるだろ?好きな事のためなら、きっと勉強も楽しいぜ?」
「そんなもんか?」
「そんなもんさ!考えてみろよ?料理の勉強を本格的にするんだぜ?知識として確かな腕になる!ワクワクしねぇか?」
「確かに!」

言われてみればそんなものかもしれない。と勇人が楽しそうに力説するもんだから、ついまこともその気にさせられる。
確かに、好きな物の勉強だと考えると楽しい気分になる。

「じゃあ……」
「……前向きに検討させていただきます、先生!」
「何だよそれ?」
「進路指導の先生みたいだったから」

そんなやり取りをして二人で大爆笑。
笑いながらまことは、勇人と付き合って見た事ない景色をいっぱい見せてくれる。自分の可能性を広げようとしてくれている。
そのことに気づき、胸がいっぱいになるのを感じていた。その時だった。

「さて、いっぱい食って精を付けたし、これからが本番だな!」
「いや、そんなつもりは……」
「何言ってんだよ!うなぎはな、性欲も増すんだぜ?」

通常、満腹になると人は性欲を無くす。
しかし、生憎普通とは程遠い勇人。そこに性欲を増幅させるうなぎをふんだんに使った料理をたらふく食べた。
元気が増さないわけが無い。

「うなぎじゃないものの方が良かったかな?」

やる気満々でギラギラしている勇人を見て、張り切って作り過ぎたことを若干公開し始めた。
ましてや、進路指導をして後押しして温かい気持ちになっていた直後のこと。まことに残念極まりない。

「土用の丑の日はうなぎだろ?うなぎ意外考えられないって!」
「“う”の付く料理なら何でも良いんだよ」
「そうなのか?知らなかった。やっぱりまことは栄養士向いてると俺は思うな」

土用の丑の日。“う”のつく料理ならと説明するまことの姿を見て、改めて勇人はそう感じた。

「じゃあ、今頃衛はうさぎちゃん食ってるな!」
「何で、そうなるんだよ?」
「うさぎちゃんも“う”のつく衛専用の豪華なご馳走だからな」
「なんだそれ」
「だから、俺らも、な?」
「私は“う”の付く食べ物じゃねえって……」
「まぁまぁ、硬いこと言わずに」

結局、精を付けて元気になり過ぎた勇人の強引さに負け、まことは身を任せる事になってしまった。
求められていることは女性として、単純に喜ばしい事であり、何だかんだ幸せだと勇人の腕に抱かれながらまことは幸せを噛み締めた。




おわり

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