千年桜


臨月を迎えたクイーンは公務を休み、産休中。クイーン業はお休みで、月野うさぎになっていた。
キングも、クイーンになっても健在の天然でおっちょこちょいな部分が心配で早々に産休を取り、四六時中付きっきり。四天王を始め、セーラー戦士全員が呆れ果て引いていた。


トントンッ


「はーい♪」

臨月の妊婦と言えど、明るく元気な声が中から聞こえて来てジュピターはクスッと笑った。

「ジュピターです。今、宜しいでしょうか?」

旧知の仲と言えど、一国のクイーン。ジュピターは丁寧に挨拶をする。

「ネフライトもおります」
「ジュノーもいますわ」
「三人とも、どうした?」

三人揃いも揃って来る事など無いため、一緒にいたキングが対応する。

「クイーンの体調はいかがですか?」
「ああ、すこぶる調子がいい」
「そうですか。では、お散歩がてら庭園に来て頂けると嬉しいです」
「なぁにぃ~、綺麗なお花でも咲いた?」

ジュピターの言葉を聞いたクイーンは、よっこいしょっと言いながらドアへと向かって来た。

「ええ、是非クイーンに見てほしい花がありまして」
「えぇ~、何だろう。楽しみぃ~。早速、行っちゃう♪」
「体調、大丈夫ですか?」
「うん、少しは動いた方が良いもん!お花見て癒されるのも胎教にはいいだろうしね」

そう話すクイーンは、ジュピターから見るとあの頃のうさぎと何も変わっていない様に見えた。

「では、私に掴まって下さい」
「俺にも掴まって」

ジュピターとキングが支える事を申し出る。それを素直に受け、二人に掴まりクイーンはエスコートされるがままに庭園へとゆっくり向かった。

「うっわぁ~、桜だぁ~♪きっれ〜。でも、六月だよ?季節外れなのに咲いたの?」
「漸く完成、といったところか?」
「ええ」
「どーゆー事?」

何かを知っているようなキングと、ジュピターの会話にさっぱり分からないクイーンはポカンとする。

「この桜は、品種改良を重ねて完成させた千年桜です」
「品種改良?」
「はい、クイーンの妊娠祝いと、スモールレディ誕生祝いに私がネフライトとジュノーに手伝って貰ってスモールレディ誕生の日に咲くようにしました」
「まぁ、ジュピター。ありがとう」
「いえ。私の趣味と実益を兼ねてやりたい事をしただけで。クイーンの笑顔も見たかったので」

ジュピターの気持ちを知り、元々泣き虫なクイーンは妊娠と歳のせいで余計に涙脆くなり、号泣した。

「後、千年咲くようにもしておきました。毎年、スモールレディとクイーンの誕生日付近に綺麗に千年、スモールレディが死ぬその日まで咲くようになっております」
「先の話ではありますが、クイーンやキング、ジュピター様達は私達より先に逝かれるかと思われますので、その後のことは私、ジュノーが跡を継ぎ、桜の手入れをさせていただきますのでご安心下さい」

ジュピターの言葉を継いで、ジュノーがそう付け加えた。
考えたくは無いし、かなり先の話であるがキッチリと説明しておく必要があると感じたのだ。

「ジュノーも、ありがとう」
「いえ、これもクイーンとスモールレディの為ですから」
「何かあれば俺も、力になりますので何なりとお申し付けを」

ジュノーに続き、ネフライトも協力すると申し出て来た。

「ネフライトも、ありがとう。スモールレディ、貴女はみんなに愛されているわ。いつでも出てきていいのよ」
「いや、六月三十日って決まってるだろ?」

すかさずキングはツッコミを入れた。と、その時だった。

「アッ!動いたわ!」
「え、うそ?マジか?」
「スモールレディもありがとう、嬉しいわって♪」

クイーンの言葉に、ジュピターもジュノーも感極まった。そして、二人はクイーンのお腹に手を当てた。

「スモールレディ、綺麗な桜だよ。いつでも生まれておいで」
「スモールレディ、ここで遊びましょうね♪」

こうして無事、スモールレディ誕生祝いとして品種改良をした桜をクイーンへ献上することが出来た。

毎年、六月三十日付近に咲き誇り、スモールレディの誕生日を祝い、優しく見守る大樹となった。




おわり

20230327 桜の日

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