優しく微笑む花の季節に


車から出て両親の墓へと歩を進める。
勿論、前日に勇人と一緒に近所の花屋で買っていた花と線香も持参している。

「どこら辺だ?」
「もうすぐだ!」

話しながら両親の墓の前に到着する。

“木野家之墓”

「ここかぁ…」

そう言って横にいるまことの顔を見ると少し泣いているように見えたが、何もかける言葉が見つからず、見て見ぬふりをして墓に目を移す勇人。
墓を見ると綺麗にしてあり、手入れが行き届いていることが見て取れた。
きっと1人で来ては綺麗好きが講じて隅々まで掃除しているに違いない。
まことらしいと思う反面、今日まで1人でどんな思いで墓参りしていたのだろうか?と考えると胸が締め付けられる想いだった。
もっと早く出会っていれば…
悔やんでも悔やみきれない、どうしようもない思いに支配され、柄にもなくしんみりと重くなる。

「今日は俺が墓を綺麗にするぜ!まことはそこで見てな!」

優しく言ってはいるが、強い意志と圧力が籠っていた為、まことは圧倒されて手を出せなくなった。
そのまま後ろで見ていると何も言わず無言で両親の墓を綺麗にしていく勇人の背中がやはりとても大きく、頼もしく見えて感極まってしまい、胸が熱くなる。
そうとは知らず、何も言わず振り向く事もせず一心不乱に墓を綺麗にしている勇人もまた、まことがこれまでどれだけの思いで両親の墓を1人で守ってきたのだろうと考えると何とも言えない気持ちになった。

「よし!綺麗になった!」

元々綺麗に保たれていたが、満足するまでまことの気持ちに寄り添いたいと時間をかけてピカピカに磨いた。

「ありがとう、勇人」
「何のこれしき!さて、メインイベントだな!」

そう言って線香を立て、墓前に手を合わせ拝み始める勇人。

「初めまして、まことのお父さんお母さん。御付き合いさせて頂いている恋人の円城寺勇人と申します。挨拶が遅くなり、申し訳ありませんでした」
「丁寧だな?照れるじゃん!」
「んな事ねぇよ!これでも全然だぜ?」
「でももう2人はこの世には…」
「いるよ!空でまことの事見守ってくれてるんだよ!」

“いない”最後の言葉は続けられずにいるとその事を察した勇人は優しく続けた。
そう、この世にはもうまことの両親はいない。
だけど、きっと傍で見守ってくれてる。そう信じていた。

「勇人…」
「だからさ、今日まで何事も無く元気で生きてこられたんだよ!」
「そうだな。でも戦士として戦ってきて何時でも死と隣り合わせだけどな?笑」
「それは置いといて、だろ?それに俺と言ういい男と付き合ってるしな!笑」
「もぅ、言ってろ!笑」

最後の言葉が無きゃあ感動的だったのにと思いつつ、本当に全てが勇人の言う通りだと心の中で納得をして感謝をしていた。
そうとは知らず、また無言で手を合わせ拝み始める勇人は両親に色々話していた。

(まことを産んでいい女に育ててくださってありがとうございます。俺には勿体ないくらいのいい女に育ってます。安心してください!これからは俺がまことを幸せにします。守ります。1人になんかしません。ずっと一緒にいます。そしてこれからはまたまことと一緒に参りに来ますので、よろしくお願い致します。それとこれはまだ彼女には言ってませんが、まこと以外は考えられないので、将来の事はしっかり考えています。一生一緒にいたいと考えているので、よろしくお願いします。あ!今の事は彼女には内緒でお願いします!)

さっきとは打って変わって真剣に拝む勇人を見て長いなと思いつつ、温かい気持ちになりながら自分も両親に手を合わせる。

(父さん、母さん紹介するよ。恋人の円城寺勇人さん。前に来た時に少し話してたよね?この人がそうです。抱擁力があって男気があって、とっても良い奴、いい男なんだ。ここへもずっと来たいって言ってくれて、挨拶したがってたよ。丁寧な奴だろ?私には勿体ないくらいさ。心配しないで、私はもう寂しくないし、今とても幸せだから)

2人は共に墓前に手を合わせお互いの事を両親に報告し合った。

「よし、行くか!」
「おう、もう両親と喋らなくて良いのか?」
「大丈夫、話したい事は全部言ったし」
「そうか、じゃあデートの続きだな!」

まことの手を取り歩き出す。
暫く歩き、上を見上げると桜が7部咲きになっている事に気付き、まことは立ち止まった。

「あ、桜が咲いてる」

春雨前線の影響で数日間雨が降り続いていたこともあり、例年よりやや早く桜が開花を始めていた。
まるでまことに“大丈夫だよ”と優しく微笑み後押ししているかのように。

「花見でもして行くか?」

花を愛でる事が何よりも大好きなまことを察した勇人が提案する。

「まだ満開ってわけでもないし、いいよ」
「また遠慮してるぞ!遠慮すんなって言ったろ?俺が花見したいんだよ!付き合え」

勿論、嘘である。本当は桜を見るまことが見たかったが、気を遣わぬよう勇人なりの優しさでかけた言葉だった。

「ふふっサンキューな、勇人」
「ん?何か言ったか?」

まことは小さな声で感謝の言葉を言ったが、聞こえたようで、聞こえないふりをした勇人の優しさに胸がいっぱいになる。

両親が事故死してから1人強く生きてきたが、中2でうさぎ達と出会い、戦士として戦う中で生きる意味、仲間との友情とかけがえのない日々。
そして勇人と再会し、自然と惹かれ付き合って。






素敵な仲間、最高の恋人ー。

両親がいなくとも満たされた人生。

大丈夫、私はもう1人じゃない。




おわり

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