優しく微笑む花の季節に


春うららかな祝日の朝、天気も良く外出日和の晴天。
いや、例え今日が雨であっても外出すると前から決めていた。
この日でないと意味がなかったからだ。

「まこと~そろそろ行くぞ」

勇人は起きた時から張り切っていた。
今日は彼岸でお墓参りの日。
まことの両親に会いに行こうと決めていた。
どうしても行って挨拶をしておきたかった。

「別に付き合ってくれなくっても良いって言ったのに…」
「何言ってんだよ!水くせぇじゃん!それに俺が行きたいんだよ!一緒に行かせてくれよ」
「勇人…」

この前からずっとこんな感じでまことは勇人の提案を断り続けていた。



それは遡ること1か月前の話ー。

「来月は彼岸があるな?」
「そうだな」
「両親の墓参り、行くんだろ?」
「ああ、その予定だけど、どうして?」
「俺も一緒に行かせてくれ!バイトも休むし、挨拶がてら手を合わせたい」
「わざわざ悪いよ」
「んな事ねぇよ!俺、お前の恋人よ?彼氏よ?もっと甘えてくれよ」
「…勇人」

そう、まことの両親は飛行機事故でもうこの世にはおらず、ずっと1人で生きてきた。
誰にも頼らず強く生きてきた彼女は遠慮や甘えるという事がとても苦手だと勇人は感じていた。
自分がお墓参りの同行を買ってでなければまたきっと何も言わず1人で行くのだろう事は易々と予想出来た。
その為、前々から行く事を事前に念押しし、アピールした。
自分の両親の墓参りだから1人で行くもので誰か同行して行く、と言う考えを持っているのだとも思う。
付き合っているのだから挨拶がてら行き、まこととの事を報告したいと付き合いはじめて両親が事故死した事を聞かされた時から思っていた。

「場所はどこだ?」
「田園調布の霊園だよ」
「じゃあ車で行くか?車は大丈夫か?」
「飛行機だけがダメなだけだから車は平気だよ。ありがとな!」

飛行機事故で両親を亡くしたまことは飛行機の音を聞くだけで怖がる程トラウマを抱えていた。
テレビや外で度々飛行機の音を聞いてはパニックを起こす姿を度々目にしていた勇人は他の乗り物は大丈夫なのか気になり、事前に質問した。
勇人なりの気遣いだった。
飛行機だけがダメと言うことを聞き、安心する。



そして話は元に戻り、墓参り当日ー。

勇人は漸く念願叶ってまことの両親に挨拶しに行けると思うと前日は中々寝れず、朝は早く目覚めてしまった。
例えるなら遠足を楽しみにしている小学生のよう。
ただの墓参りなのに、大の大人が、しかもこんなガタイのでかい男がワクワクしている。
それなのにこの期に及んでまことはまだ遠慮していて、寂しく思った。

「まだそんな事言ってる…。もう行くって決めて準備も完了してるんだ、これ以上遠慮したら拉致って無理矢理連れてくぞ!それに墓参り終わったらデートなんだからな!」
「分かったよ…。大人しくナビゲートするよ」
「分かればよろしい。じゃあ、出発進行~♪♪」

根負けしたまことは勇人の言葉に素直に甘えることにした。
了承を得た勇人の後ろ姿を見たまことは、その大きく広い逞しい背中に抱擁力を感じ、とても感動して泣きそうになっていた。
そうとは知らず勇人は上機嫌で鼻歌を歌っている。
その姿に思わず笑を浮かべ、愛されてるな~幸せだな~、と思うまこと。


そして車に乗り、目的地の墓地へと向かう。
車の中では他愛もない話で盛り上がる。

「今日は衛もうさぎちゃんと墓参りだよな?」
「そう、毎年恒例」

衛もまことと同じで幼い頃に両親が事故死していた。
うさぎと付き合ってからはずっと一緒に墓参りする事が恒例行事となっていた。
衛にはうさぎ、まことには勇人が寄り添い支えている。

「まことの両親はどんな人だったんだ?」
「優しい人達だったよ。誰にも分け隔てなく手を差し伸べる素敵な両親で、私の自慢の両親だった」

そして今度はまことの両親の話になった。
衛とは違い、まことには両親の記憶がハッキリとある。
それだけにそれは時にとても辛いものでもあった。
思い出して感極まって泣きそうになるまことだが。

「まこと見てたら素敵な両親って伝わってくるよ!こんなにいい女に育ててくれたもんな!」
「私は全然、いい女なんかじゃないよ」

勇人の何でもない一言で涙はどこかに行ってしまった。

「いい女だって!俺が保証する!最高の女だよ!」
「褒めすぎだって!恥ずかしいよ笑」
「そうか?褒めたりねぇくらいだけどな?」
「勇人もいい男だぜ!」
「だろ?デカいだけあって抱擁力すげぇあるだろ、俺!」
「言ってろ笑」


会話に花を咲かせていると目的地の霊園に到着する。
車で2人で来ると言う事がなかったまことは道中こんなに楽しく軽い気分で向かえた事に驚いた。
1人で電車で向かっている道中はどうしても両親の事を思い出し、寂しい気持ちで向かっていた為、道のりがとても長く感じていた。
でもどうだろうか?勇人と一緒と言うだけで気持ちは軽く、道のりも短く感じた。
言い表せないむず痒いこの気持ちにとても心がこそばゆくなる。

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