恋は別腹


side 木野まこと


受験もラストスパートに入って来た二月。当たり前だけど、勉強勉強の毎日に嫌気がさしていた。
そんな時に美奈からバレンタインの予定を聞かれた。
当然、受験勉強だと答えると、つまらないと言われてしまった。一体、何を期待しているのか?

「好きな人はいないの?」
「それどころじゃないだろ?」
「恋は別腹でしょ!」

受験で恋所ではないと伝えると、関係ないと言われる始末。

「浅沼くんとはどうなってるのよ?」
「どうもなってないって」
「今はまこちゃんの恋バナだけが私の生き甲斐なのよ!」
「知らないよ……そう言う美奈の方は?うさぎだっているだろ?」
「うさぎは却下!論外!私は今は誰もいないし……」

恋多き女、美奈でさえ今は本命が不在なんだとか。その代わり、恋バナがありそうな私に着目したとの事。

「慕ってくれる異性がいるのは幸せな事よ?利用しない手はないわ!誕生日、祝ってくれたんでしょ?バレンタインに何かあげたら」

息抜きも兼ねてと美奈から提案され、乗っかってしまった。
確かに美奈の言う通り、浅沼ちゃんにはこの一年色々世話になったし、勉強ばかりでメリハリの無い毎日にバレンタインデーの一日くらい休んでも罰は当たらないと思う。
いい気分転換になって伸び悩んでいた成績も効率アップするかも知れない。そう思い、うさぎを誘ってバレンタインのチョコ作りをすることにした。

ーーそして、バレンタインデー当日。

平日だから16時にいつものクラウンに浅沼ちゃんを呼び出した。
イベントごとには興味無さそうだけど、流石に今日という日がどんな日か、浅沼ちゃんだって気づいてるよな。
そんな深い意味は無いんだけど、そう思われていたらどうしよう。そんな事を考えていると天罰が下った。
そう、私は成績の事で先生に呼び出しを喰らい、軽く説教をされてしまった。お陰で呼び出した私が時間より遅れて行く事になった。

クラウンに着くとやっぱり浅沼ちゃんが先にいて、笑顔で迎え入れてくれた。可愛いな。

「ちょっと先生に捕まっちまってさ」

言い訳にならない言い訳をする私を、浅沼ちゃんは大きな心で受け止めてくれた。年下だけど、頭がいい分余裕がありそうで羨ましい。

「今日の日付で大体予想は着いてると思うけど、これ、バレンタインのプレゼント」
「まこと先輩、ありがとうございます!」

呼び出した理由である手作りチョコを渡すと、嬉しそうに受け取ってくれた。
私が手作りして上げるのは、こうして受け取ってくれた人達の笑顔が見れるから。だから、頑張って作ろうって思うんだ。
大好きな人にだけ特別にとかじゃなくて、みんなに分け隔てなく作って上げたい。勿論、浅沼ちゃんにも喜んで欲しかったから、笑顔が見られて嬉しい。
ただ、やっぱりこんな日に手作りって意味深過ぎるよな。勘違いされてないといいけど。
寧ろ、お口に合うといいけど。

中学一年の時は、先輩に上げたっけ。
喜んでくれたけど、振られちゃった。
先輩にとって私はそう言う対象じゃなかったんだ。

中学二年の時はそもそもブラックムーンに捕まって、イベント参加する事すら無くて。
もしかしたら美奈はそれもあって、提案してくれたのかな?
いや、あの美奈に限ってそれはないか。ただ単にネタが欲しかっただけだろうな。それなのに乗っかってさ。
でも、やっぱりお菓子作りは楽しいと改めて感じたんだよな。
勉強は嫌だけど、将来の夢の為にも頑張らなきゃなと気を引き締めることも出来た。リフレッシュにもなった。
利用したわけじゃないけど、浅沼ちゃんのお陰で大切な事を思い出せた。

「ありがとう、浅沼ちゃん」
「何か言いました?」
「いや」

小さな声で呟いた感謝は、BGMや人々の声で煩い店内では浅沼ちゃんの耳には届いていないみたいだった。わざと聞こえない大きさで呟いたから、それで良かった。
浅沼ちゃんには本当に感謝している。普通の日々の尊さや、受験とは関係ない日常に寄り添い、守ってくれているようで。
ずっとこのまま、こんな時間が続けばいいなど願ってしまう。
実際は受験はこれからが本番なんだけどな。




おわり

20240214 バレンタインデー

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