相席スタート


「僕、そんな目立ってました?」
「いや、控えめ。でも、仲良くなれそうとは感じたよ」

一人で通っていたまことに対して、浅沼は学校の友人と来ている事が多かった。しかもいつも違うメンツと一緒だった。それを見て、うさぎと重ね、きっと誰とでも仲良くなれる人懐っこい性格なのではとまことは考えた。
その考えはやはり合っていて、初めて相席した時も初対面とは思えない程打ち解けて、色々話し込んだ。

「僕も気になってたんですよ。この辺では見ない制服着てるので」
「はは、目立ってたか」

しかし、そのお陰で二人は互いに気になっていたとこの日初めて知ることが出来た。

「でも、浅沼ちゃんなんてあのエリート校の元麻布じゃん?すげぇよな」
「いやぁ、たまたま受かっただけで、運がいいんですよ。後、衛先輩のお陰かな」
「出たよ、浅沼ちゃんの衛先輩大好き発言!」
「大好きなんて、言ってないじゃないですか!」
「またまたぁ、顔、真っ赤だぜ?」
「か、からかわないでください!」

大好きなのは衛先輩じゃなくて、あなたです!なんて言いたくても言えない浅沼だった。
まことはまことでそんな浅沼の気持ちには全くと言っていい程気づいていない。更に、異性としては見ておらず、弟の様に可愛がっている。
浅沼が余計に告白を尻込みする理由だ。
一度遠回しに断られている経緯もあり、余計に怖くなっている。
しかし、あの時はまことが風邪を引き体調が悪い中での遠回しの告白。まこと自身もそれが告白とも思っていない可能性もある。断ったのも無意識で深い意味も無いかもしれない。
現に、あれ以来その事には触れないばかりか無かったことになっているのか、普通に接されている。忘れている可能性が高い。
そう、あの後まことは行方不明になっていたし、それどころでは無かった。
忘れているならまだ頑張ればチャンスがある。それならその方がいい。そう考えて浅沼は学年が上がってからずっと頑張ってまことにアタックしていた。
今日の誕生日もその一環である。美奈子にも頑張れと後押しされて、協力して貰っていた。

「でも、まこと先輩と衛先輩が知り合いって知った時はびっくりしましたよ」
「私も浅沼ちゃんが慕ってる奴が衛って聞いて驚いた」

世間は狭いと感じた。それと同時に、運命や縁というのが本当にあるのだなと浅沼もまことも感慨深くなった。
だから互いに気になったのかと。

「浅沼ちゃんはテスト勉強、いいのかい?」
「まぁ良くは無いですが、日頃からしているので」
「だよなぁ。でも、受験無くて羨ましいよ」
「その為に中学受験頑張った様なものですしね。それに僕、まだ中二ですから」
「そうだったな。あーあ、ずっと中二がいいなぁ」
「なぁに言ってんですか、今日で15歳になった人が」
「そうでした」

学生らしい会話を繰り広げていると、注文の品が次々運ばれて来る。

「いらっしゃい。浅沼くん、まこちゃん」
「宇奈月ちゃん、お邪魔してます」
「久しぶりよね?まこちゃん来なくて寂しかったわ。浅沼くんばかりで飽きちゃった」
「宇奈月先輩、酷くないですかぁ?」
「ふふ、冗談よ!ゆっくりして行って。それと、まこちゃんお誕生日おめでとう」
「宇奈月ちゃん、ありがとう」

学校が終わった宇奈月もバイトに合流していた。
まこと達の席に注文の品を持ってきた宇奈月は勘が良く、メニューを見てまことの誕生日であるとピンと来てお祝いの挨拶をしてその場を去っていった。

「改めまして、まこと先輩。お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、浅沼ちゃん」

運ばれてきたジュースを持って乾杯する。

「いただきます!」

机の上に所狭しと並べられた新作メニューを嬉しそうに食べ始めるまこと。
浅沼はその笑顔を見ているだけで幸せだなと感じ、胸いっぱいになる。この時がいつまでも続けばいいなと浅沼は願ってしまう。

その後、無事二人で食べ終わり、会計をしようとレジに伝票を持って行くと割引されていて思っていたより安くなっていた。
宇奈月もまことの誕生日で乗っかったとの事だった。それでも少し持ち合わせに足りなかったが、信頼と実績でツケにして貰い、次に来た時に加算され払う事で事なきを得たのだった。




おわり

20231205 木野まこと生誕祭2023

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