相席スタート


12月になり、本格的な冬がやって来た。すっかり寒くなり、行き交う人は皆足早に街を歩いている。吐く息も白く、寒い事が伺える。
そんな外の人々を浅沼はいつもの喫茶店であるクラウンでメニュー表を見ながら横目で確認していた。

「まこと先輩、何でも好きな物頼んで下さいね!」
「そう言われると悩むなぁ」

浅沼の言葉に困惑しながらも喜ぶまこと。席に着いてからずっとメニュー表と睨めっこで何を注文するかを悩んでいた。

「今日はまこと先輩の誕生日なんですから、何でも奢りますよ」

浅沼の言う通り今日はまことの誕生日。早くからこの日を一緒に祝いたいと申し出ていて、了承を得ていた。
二学期の学期末テストも近いため、うさぎ達には少し前に祝ってもらっている。普通であれば当日にとなるところだが、うさぎ達は受験生の為、前倒しで行ったのだ。
まことも受験生だが、誕生日のこの日くらいは息抜きをしてもいいだろうと浅沼からの粋な提案をした。勉強が大嫌いなまこととしてはありがたい提案に乗る事になった。

「新作色々あって悩むなぁ」

いつも来ているクラウンだが、クリスマスが近い為新作のメニューが取り揃えられていた。
そこに、まことは最近こん詰めて受験勉強をしていたからほとんど来られていない。そんな中でのクラウンのメニューはまことにとって目新しいものばかり。どれも美味しそうで、どれも食べたいと悩んでしまい中々決められないでいる。

「良いですよ、全部でも」
「いやぁ、そんな!流石に悪いよ」
「シェアすればいいんで」

浅沼は学生だ。しかもまことより年下。そんな子に無理はさせたくないと遠慮がちに答えるまことだが、浅沼は譲らなかった。

「学生ですが、それくらいのお金はありますので」

譲らない浅沼は本気だった。ここで男を見せて株を上げたいと思っていた。

「じゃあ……」

まことはそう言うと、手を挙げて店員を呼ぶと気になったメニューを片っ端から頼んで行く。
その様子を微笑ましく見ていた浅沼だが、予想を超える注文に、流石に顔が引きつり引いてしまった。心の中で浅沼は、うさぎの事を思い出し、衛の気持ちを思いやった。いつも衛はこんな複雑な気持ちになっていたのかと、尊敬が深まる。

「結構、頼みましたね」
「つい、すまない」
「大丈夫ですよ。僕が遠慮しないでって言ったので」

とは言ったものの、払えるかより食べられるのかが心配になって来た。

「人、混んできましたね」

取り敢えず浅沼は不安を振り払う様に話題を変えてみた。

「学生が多かったけど、OLやサラリーマンも増えて来たな」

まことと浅沼を初め、学生は学期末テスト前で午前中で授業は終わっている。そのため、まことと浅沼は早くからクラウンに来ていた。
来た当初は人がまばらで混んではおらず、静かな雰囲気だった。
それでも外が寒い事もあり、平日の午後にしては賑わいを見せていた。
それが時間が深くなっていくと、周りを見渡せば満席になっていて浅沼は単純に驚いた。

「僕たちが出会ったのも、こんな混んだ日でしたね」
「言われてみれば、そうだったな」

浅沼はまことと出会った日に思いを馳せていた。
その日もちょうど今と同じで満席の真昼間。9月の初めというのに、兎に角暑い日だった。
暑くても外にいると熱中症になると言う理由で、クールダウンしにクラウンに駆け込んだ浅沼だが、満席だと断られそうになった。
しかし、店員である宇奈月が機転を利かせて一人で座っていたまことにひと声かけ、相席することになった。それがまこととの初めての顔合わせとなった。

「あの時は、相席を快諾して頂いてありがとうございます」
「いや、そんな。困った時はお互い様だよ」

当然の事をしたまでだとまことは何でもない風に笑顔で言った。実際、まことにとっては取るに足らない当たり前のことだった。

「私の事、怖がらなかったのうさぎの他に浅沼ちゃんだけだったしな」
「怖いなんて思った事なかったですよ!優しくて素敵な人だなと思いました。今もそう思ってます!」
「はは、ありがとう」

浅沼のその言葉であの時相席を快諾して良かったとまことは自身のあの日の決断が間違ってなかったと嬉しく思った。
あの日あの時相席しなければ、今ここでこうして誕生日を祝って貰うという事もなかったのだから。
ただ、普通の人であるにも関わらず、戦士として使命がある自身と関わりすぎて知らなくていいことを知り、巻き込んでしまい申し訳なさを感じていた。

「何度か通って、顔知ってたからなぁ」

引っ越してきてゲームセンタークラウンの常連になったのと同時に、同じ名前の喫茶店が気になったまことは戦士になった後も何度か一人で足を運んでいた。
一目惚れした元基の妹である宇奈月がここで働いていた事で常連となる。ゲームも得意で好きだが、元来、乙女で可愛いが好きなまことは、宇奈月とも仲良くなったことで通うことを決めた。
その中で、浅沼の事も顔見知りとなり、どこかうさぎに似ているなと感じて仲良くなりたいと思っていた。

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