影おくり
月影の騎士の考え通り、それからすぐにその機会は訪れた。
「ムーンティアラアクション!」
学校帰りの放課後、ファージが現れ、セーラームーンに変身して戦っていた。
敵は強く、例によって逃げ回る事と昔からの、最初から使用していた技で応戦するのがやっとだった。
「スターシリアス!レイザー!」
「スターセンシティーーーブ、インフェルノ!」
「スタージェントル!ユーテラス!」
「ファイター!メイカー!ヒーラー!」
セーラームーンのピンチに、いち早くセーラースターライツが駆けつける。
ピンチから救われたセーラームーンは、ホッとしてる三人を呼んだ。
「僕たちの事も忘れないでくれるかい、かわい子ちゃん♡」
「まぁ、ウラヌスったら!うふふ」
スターライツより少し遅れてやって来たのはセーラーウラヌスとセーラーネプチューンだ。
遅れたこともあり、機嫌が良くないようだ。スターライツがいることで対抗心を燃やし、不機嫌になっている。
今はプルートはいないが、外部戦士はスターライツを敵対して忌み嫌っている。それはスターライツも同じことだ。
顔を合わせれば喧嘩が耐えない。うさぎは平和主義のため、仲良くして欲しいのだが、そうは問屋が卸さない様だった。
今も戦闘態勢で、今にもぶつかりそうになっていた。本来の目的とは逸脱している。
「キャーッ」
敵から目を逸らしていると不意をつき、セーラームーンは襲われた。
「セーラームーン!」
その場にいた五人の戦士の声が重なる。
自分達のつまらない見栄やプライドのせいでセーラームーンはファージの罠に捕まってしまった。
助けなければとその場にいた五人が動くが早いか、どこからとも無く白い薔薇がその場を貫いた。
「こ、この、薔薇は……!?」
真っ直ぐファージに白い薔薇が数本突き刺さった。
ファージは痛がり、その拍子に捕らえていたセーラームーンを離し、二人はその拍子に地面に倒れ込んだ。
「今宵は月を愛でるに相応しい」
「だ、誰だ!?」
セーラームーン以外のその場にいた全員が薔薇が飛んで来た方向へと視線を移し、そして絶句した。
「そ、その格好は……」
「美しくないわね……」
「と言うか、変な格好ですね」
「タキシード仮面の方がまだ良かったな」
「美的感覚って……」
月影の騎士を知らない戦士から辛辣な感想が飛んでくる。
「私は月影の騎士。セーラームーンを守る為に馳せ参じた。手荒なことは許さない」
「月影の騎士様♡でも、何故?」
「久しぶりだな。大丈夫だったか?話は後だ。トドメを!」
「はい!スターライトハネムーンセラピーキッス!」
敵に捕まったり、危うく仲間(セーラー戦士)同士が一触即発になりかけたが、月影の騎士のお陰でとどめを刺すことが出来た。
「ビューティフォー!!!」
「ありがとう、月影の騎士様♡」
何とか倒したセーラームーンはホッとしたと同時に、久しぶりの月影の騎士にときめいた。
「これが前に少し話に聞いていた、月影の騎士って奴か」
「中々楽しい出で立ちをしているわね」
うふふと可笑しそうにネプチューンは月影の騎士を見て呟いた。
「タキシード仮面の影の姿、だったかしら?」
「君たちは、外部太陽系戦士だったかな?」
「僕たちをご存知で?」
「君たちも私を知っているようだ」
双方が驚くのも無理は無い。月影の騎士の方は衛の記憶から、外部戦士の方はうさぎやレイ達から少し昔の話を聞いて知っていた。
「男ですって?」
「セーラー戦士だけでは無いようね」
「月影を名乗っているのに、随分と存在感が強いわね」
「そっちこそ、闇夜に隠れそうだ。それにセーラー戦士なのにセーラー服と言うよりただの下着、と言うかビキニ……ゴホンッ」
外部戦士とは違い、セーラースターライツの存在は知らない。それはスターライツも同じことで、お互い服装の事で困惑していた。
特に月影の騎士は、露出高めな戦闘服に、目のやり場に困ってしまった。
「見たところ、君たちとセーラームーンは違う様だ」
「その通りよ」
「そう、そちらは弱いわ」
「こちらは強い。一緒にされなくて良かった」
一瞬にしてこちら側を見下し、軽蔑している事が見て取れた。
内部戦士だけの時は仲良く一致団結しているイメージだっただけに月影の騎士は驚いた。
「セーラームーン、君も随分と外見が変わったな。羽が生えてて驚いた」
「はい、進化しました。どうですか?」
「ああ、可愛い。天使かと思ったよ」
「うふふ、嬉しい♡ありがとう、月影の騎士様。タキシード仮面様にも、そう言って欲しかったな……」
可愛いと言われ、セーラームーンは舞い上がった。
同時にタキシード仮面を思い出し、切ない顔をして見せた。
熱い視線がぶつかり合うのを見た他の戦士は、敵も倒したから長い無用とばかりに「それじゃあ」と言って帰って行った。
「そのタキシード仮面はどうした?」
五人がこの場から去ったのをチラッと横目で確認した月影の騎士は一番聞きたかったことをセーラームーンに問いかけた。
すると、その言葉をスイッチにセーラームーンの瞳からは大粒の涙が溢れた。
「どうした、セーラームーン?」
「ヒックッ、うぇーん。月影の騎士様ぁ〜〜〜〜」
泣きながらセーラームーンは月影の騎士に抱き着いた。
「タキシード仮面様と、まもちゃんと、ずっと連絡が取れないのぉ〜〜〜〜〜」
どぉしちゃったんだろぉ〜と言いながら、セーラームーンは音信不通になってからずっと不安だったと本音を漏らした。
「衛は今どこに?」
「海外に留学中で、手紙書いてるんですけど返事が全然無くて」
「戦いがあることは?」
「言えてません」
心配かけたくないのも勿論だが、どう話せばいいのか分からず手紙にはまた戦いが始まったことは書けずにいた。
「月影の騎士様……」
「セーラームーン……」
セーラームーンはギュッと強く抱き締めると、月影の騎士もそれに答えるように強く抱き締め返した。
「これからは私がいる。私がずっと、セーラームーンを守る。衛に代わって」
「月影の騎士、ありがとう。心強い」
泣き疲れたセーラームーンは、そのまま意識を失うように安心して眠りについた。
「今までよく一人で辛いことを抱えていた。ゆっくりお休み」
寝ているセーラームーンの唇にチュッと短いキスをした。
「君だけを ずっと守るよ 永久に」
その日から、タキシード仮面不在の戦いでのセーラームーンのピンチには月影の騎士が現れるようになった。
おわり
20240819 俳句の日
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