夢幻泡影


一方その頃地場衛は自宅で見知らぬ男が寝ているのを戸惑って見ていた。

「この男は誰なんだ?変な格好しやがって……」

いつもの様に不吉な夢を見て目が覚め、ベッドから起き上がってリビングに行き水を飲んで寝室に戻ると、今し方まで寝ていたベッドにはアラビアンナイト風のコスプレをした男が寝ていた。寝るに寝れない。いや、そう言うことでは無い。
戸締りはしっかりして怠ってはいない。一体何処から現れて、瞬時に深い眠りについたんだ?
悪夢から覚めて現実でも更に悩まされる事になるなんて、一体どれだけ俺を苦しめるんだ?

「ん、うう……んん~」

漸く目が覚めたようで、状況を把握しようと起き上がりキョロキョロしている。不審者そのものだ。

「目覚めたようだな?」
「あ、ああ……」

まだ頭がボーっとしているのか受け答えがはっきりしない。

「お前は誰だ?何故俺の部屋にいる?どうやって入ってきた?」
「待て待て質問が多いぞ、地場衛!」
「何故俺の名を知っている?」
「私の名前は月影の騎士。お前の月野うさぎを想う心の潜在意識の塊だ。言わばお前自身と言うわけだ」

地場衛が知りたい情報を端的に答える月影の騎士。

「お前が俺自身……だと?うさこを想う心の塊?俺の分身と言う事か?」
「分かりやすく言うとそう言う事だな」

戸惑っている衛とは裏腹に夢から覚めた場所が衛のマンションで月影の騎士はホッとしていた。
そしてその事で冷静に慣れていた。

「俺はダークキングダム最終決戦後に記憶を失ってからうさぎへの愛を取り戻すまでセーラームーンをタキシード仮面に代わり守っていた」
「そう……だったのか」

寝耳に水の様で驚きながらも真剣に衛は聞いていた。

「月野うさぎへの愛に目覚めたからお前の中へと戻ったのだが、また分離してしまった。この意味が分かるな?」
「……あ、ああ」

流石は頭のいい衛、瞬時に意味がわかったのか思い当たる節がある様で歯切れの悪い返答が返って来る。

「月野うさぎと何があった?別れたのか?」
「まぁ……そう、だな」

再び歯切れの悪い返答が返って来る。
まぁ上手くいっていたら月影の騎士は出てなどこないのだから、そう言う事だろう。

「何故そんな事になったんだ?」
「……お前には関係無いだろ?」
「俺はお前の分身だ。しかし、存在してはいけない。お前の中へ戻る為にも原因を知る必要がある。分からない限り消えないからな」
「少し時間をくれ」
「仕方ない。私は別にこのままでも構わないからな。話せる状態になるまで待ってやる」

衛は今の状況を飲み込めず、まだ軽く混乱しているようだった。
この状況を整理して、今うさぎとどうなっているのかを確実に伝えられる様にしたいのだろう。別に急いではいないから話せる精神状態になるまで待つ事にした。
ただどんな状況であるか、衛とうさぎが上手くいかない限り月影の騎士は消えない。
どんな状況出会っても2人を元の鞘に戻さないといけない。それが今回の使命だと感じていた。

「夢を見たんだ」

頭の整理がついたのか、衛は重い口を開き言葉を紡ぎ出した。

「どんな夢だ?」
「……“地場衛、お前は月野うさぎに近づいてはならない。2人が結ばれし時世界は崩壊し、月野うさぎ即ちプリンセス・セレニティに不幸が起こるであろう”と言う謎の男の声と共にウエディングドレス姿のうさこと建物が崩壊する夢だ」

中々にハードで重い話が出てきたが、高々夢であり、現実での話ではない。そこまで過剰反応する必要があるのだろうか?理解できない。

「ただの夢だろ?」
「ただの夢なんかじゃない!お前が俺の分身であるなら分かるだろう?」

確かに言われれば思い当たる節がない訳では無い。
銀水晶探しは他でもない、夢からの思し召しだった。

「確証はないだろう?」
「しかし、無碍にも出来ないだろ?繰り返し何度も夢に見るんだ……」
「うさぎを思って別れたと?」
「ああ」

同じ夢を何度も繰り返し見るのは確かに苦しいが、それでうさぎと別れるのも辛い選択肢だ。他にいい方法が無かったものか?
私が出てこなくてもいい相談相手がいなかったのだろうか?

「その夢の中の声の主に覚えは?」
「いや、全くない。……待てよ?お前と声が似ていたな?お前じゃないのか?」

何を突拍子も無いことを言い出すんだ?
俺は今その話を聞いて驚いているにも関わらず犯人に仕立て上げるとは心外である。

「まだ寝ぼけているのか?俺はお前とうさぎの中を取り持つ事はあっても別れさせるなんて事はしない」
「そ、そうだったな。すまない。混乱していたようだ。だけど声は何度も聞いているから間違いない」
「同じ声の誰かが他にいて、そいつがお前とうさぎを別れさせたい奴の仕業と言う事か?」

俺と同じ声で地場衛と月野うさぎに別れて欲しい人物とは?強力な恋敵、もしくは月野うさぎの父親と言った感じか?
出てきてしまった上、何俺に容疑が一度でもかかったのだから、何がなんでも2人が別れなければいけなかった原因の夢の中の声の主を探さなければならなくなった。

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