月下想葬


「ここだわ!」

暫く歩くと、目的地へと到着した。うさぎが来たかったその場所とはーーー

「遠藤さんだったまもちゃん。タキシード仮面を刺した場所だ!」

そう、うさぎが来たかった場所は、ダークキングダムに堕ちたタキシード仮面を刺し殺した場所だった。
不吉な夢を見たこの日は、ダークキングダムとの最終決戦の日だった。その事を思い出したうさぎは、この場所で弔おうと決意してただ一人、ここへと向かっていた。

「遠藤さん、ごめんなさい。そして、ありがとう……」

闇堕ちしたタキシード仮面を刺したその場所で、うさぎはしゃがんで手を合わせる。涙を流しながら、遠藤を想いながら拝む。
何をしても元に戻らないタキシード仮面に為す術なく、最悪の結論である刺し殺す決断を下したうさぎ。愛する人を失う事に耐えられず、その後を追って自らも自害をした。
結果、どちらも翡翠や懐中時計に助けられ生き残れた。

優しくてかっこいい衛を取り戻し、うさぎは幸せだった。

しかし、もう一人の人格である“遠藤”と名乗った闇堕ちした衛は、やはり死んでしまった。殺したとうさぎは少し後悔を抱いてしまった。

闇堕ちしたとは言え、衛だったのだ。ダークキングダムの命令で近付いてきたとは言え、遠藤はうさぎに対して優しく接してくれていた。
忘れていたとはいえ、遠藤としてもうさぎに興味を抱き、秘密を知りたいと言ってくれた。セーラームーンについて知りたがっていた。
うさぎが銀水晶を持っているから殺さずに連れて来いと命令されていたかもしれないが、いつでも殺るチャンスは幾らでもあった。
しかし、そうする事無くうさぎに対してだけは何故か優しく接してくれた。

そんな優しかった遠藤を殺す決断をしたのはうさぎ自身だった。あの時はそうするしか手段が無かった。追い込まれていたし、何よりあんな姿をもう見ていられなかった。後悔はしていない。
けれど、一年を迎えたこの日、衛の別人格である遠藤を殺した事に罪悪感が芽生えた。あのリアルな夢のせいで。
どんな悪人でも、やはり殺すのは許されない事だと。土萠教授を殺す時も、やはり葛藤があり戸惑った。

「遠藤さん、どうか安らかに……」

遠藤は衛の別人格だ。悪い人だったとしても、やはり自分の事を好きだったのかなとうさぎは自惚れた。
エンディミオンの生まれ変わりである衛もまたエンディミオンとは別人格だ。それでも、記憶をなくしていてもセレニティであるうさぎを好きになってくれた。それと同じ様なものなのでは無いか?そんな風に考えた。

「もし又会える事があったら、今度は……」

遠藤とはたったの一ヶ月程の付き合いだった。
衛と似たその人に、衛を重ね心の拠り所となっていたし支えられて来た。違うと頭では分かりつつも、心は追い付かなかった。
うさぎにとって遠藤は、不安な時期に支えてくれた確実に心の支えになっていた。

「もしもっと長引いていたら、あたし、あなたのこと、好きになっていたかも」

衛の無事を祈りながらも、どうなるか分からない不確かな想いに心が挫けそうになっていた。
そんな中、衛と瓜二つの男が優しくしてくれて心揺らがない人がいるだろうか?うさぎはそんなに強くは無かった。
本当はその手を取れたらどれだけ楽だろうと何度思ったことか。
しかし、そうしなかった。出来なかったのはやはり衛が無事生きていると信じていたから。
そして、遠藤は衛の他人の空似だと考えていたからだ。

「ううん、好きだったのかもしれない」

同じ顔の違う性格だが、根底は優しい遠藤。気づいていないだけで、とっくに恋に落ちていたのかもしれないとうさぎはふと考えた。

「遠藤さん、あたしを愛してくれて守ってくれてありがとう。大好きでした!それじゃあ、さようなら」

遠藤への想いを色々思い出しながら、うさぎはダークキングダムの城を後にした。

うさぎが家路に着いた時にはもう日はとうに暮れ、暗くなっていた。
ふと空を見上げると、満月が光り輝いていた。まるでうさぎを包み込むように。月の光を浴びたうさぎは、気持ちが楽になっていくのを感じた。

「そっか、今日は満月か♪」

怖がりな自分が一人きりで行動できたのは、満月が見守ってくれていたからかとうさぎは一人納得して、家の中へと入っていった。

スッキリとした気持ちになったうさぎは、この日やるはずだったテスト勉強を遅くまで頑張った。



***


翌日、うさぎは朝早くにいつもの待ち合わせ場所へと来ていた。

「うさ、おはよう。今日は早いな」
「おはよう、まもちゃん♪えへへ、あたしも大人になって来てるってことだよ」
「チョーシに乗るな!」

衛の左腕に両手を絡ませ体を密着させる。
衛の呆れた顔の後の優しい顔を見たうさぎは、衛の無事と一緒にいられることの幸せを再確認しながら学校に登校した。




おわり

20230321

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