月下想葬


「タキシード仮面!……いやぁっ」

うさぎは自分の寝言で目が覚めた。それは部屋中に響く程の大きな悲鳴。
11月下旬。中学三年になり、受験生のこの時期はもうすぐ期末テストが迫っていて、内申点が受験に響く大事な時期。
そんな事もあり、勉強嫌いなうさぎも流石に本腰を入れてテスト勉強に取り組んでいた。
進学校に通い、医者を目指す恋人に恥じない、隣に並んで歩いても恥ずかしくない女性であるよううさぎなりに嫌いな受験勉強に向き合っていた。

そうは言っても疲れてしまうもの。休日という事もあり、朝から起きてずっと勉強をしていたうさぎはいつの間にかうたた寝をしてしまっていた。

「妙にリアルな夢だったな……」

夢とは言え、タキシード仮面である衛が何者か分からない敵に剣で刺される。
それを何も出来ず、動く事すら出来ずに目の前で見ている事しか出来なかったスーパーセーラームーンであるうさぎ。

せっかく戦士になり、何度もピンチを救ってきた。3つの強大な組織に立ち向かう度、強くもなっていた。
なのに、目の前で大切な恋人が敵の手に落ちて死ぬのをただ見ているしかないなんて……そんな風に夢の中とは言え、救えなかった後悔にうさぎは胸が締め付けられる思いがした。

「まもちゃん……大丈夫かな?」

今日は亜美ちゃんもまもちゃんも模試だと聞いていた。時計を見るとまだ午後二時を過ぎただけで、模試は終わっていない時間帯。
今頃は必死に答案用紙に答えを書いている所だ。何も無ければ、模試を受けている。

たかが夢。されど夢。けれど、夢だとわかっていてもうさぎは胸騒ぎがした。夢とは思えないリアルさ。そして、夢が実際現実化する事を目の当たりにしていた実績。
これらを考えると夢で終わらせるにはどうしても出来なかった。

「そう言えば……」

すっかりテスト勉強の事を忘れ、夢に囚われたうさぎは考え込み、ふと一つの答えに行き着いた。
そして、カレンダーを見て思い出した。

「今日って、もしかして……」

合点がいったうさぎは、銀水晶が収納されている変身ブローチを手にして慌てて家を出ていった。


***


外に出たうさぎは、銀水晶の力を借りてとある場所へと来ていた。

「うっ寒い。やっぱり北極は寒いな……」

誰にも相談すること無くうさぎが一人で来た場所、それは北極圏Dポイントーーーそう、ダークキングダムがあった跡地。
11月下旬の東京も寒いが、比べ物にならない程この土地は寒く、うさぎは寒さと怖さに震えていた。

「よし、行きますか!」

もしまだ妖魔が生き残っていたらと不安になりつつも、自分自身を奮い立たせる為に気合いを入れて鼓舞をした。
ダークキングダムは、あの時銀水晶で再生したのか、元の立派な城になっていた。
それでも中に入ると、あの頃の不気味さは変わらずでうさぎは一人で来た事を後悔した。

「えっと、あの場所は……」

最終決戦で一度来ただけのうさぎにとって、この城は迷路だった。広くて何処に何があるか、さっぱり検討も付かない。
そこに来て、うさぎはただただダークキングダムに堕ちたタキシード仮面を追ってきただけで土地勘など皆無。

「薄気味悪いなぁ……」

何処に何があるか分からないうさぎは、銀水晶に頼る事にした。万能な銀水晶なら、きっと行きたい所に導いてくれる。
それにクイーンが言っていた“銀水晶は持ち主の心のままに働く”と。今のうさぎの強い味方をしてくれると信じていた。

「お願い、銀水晶!私をあの場所へと導いて!」

うさぎがお願いすると、銀水晶は光り輝き、行き先を指し示した。
その光の方向へとうさぎは歩を進める。

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