夢想
「早く目覚めなければ……」
焦れば焦る程、それが叶わない。
それに誰かに抑え込まれている感じがする。
「誰だ?俺をコントロールしている奴は?」
もしもそいつがうさこに近づき、彼女の魅力に気づいてしまったら……?
うさこに手を出したら、許さない!
俺がずっとうさこを、セーラームーンである彼女を守って来たんだ。これからも彼女を守り、サポートするのは俺の役割。誰にも渡すつもりは無い。
「いや、俺の身体は?」
そこでふと気になる事が浮上した。
そうそれは、俺の身体が今何処にあるのかだ。
確か倒れた俺は、うさこの膝に頭を置いていたはず。と言う事は、生きていたならうさこがそのままどこかに持っていったのだろうか?
ではどこに?彼女の家?いや、それは無いな。彼女には家族がいる。男の俺を持って帰ったら、不審に思い、警察へと連絡されているだろう。それに、仲間が止めるだろう。
彼女のベッドに寝かされていたなら、幸せなのにと思ったが、叶わぬ願いだと絶望した。
結局は考えた結果、俺の部屋に返されているという結論に至る。それが一番しっくりくる。
一度だけだったが、うさこを俺の部屋のベッドで寝かせたことがある。多分、覚えてくれていれば、彼女が送り届けてくれただろう。
「うさこ」
あの日、初めて彼女の名前を呼んだんだよな。
嫌がられなくて、ホッとしたのを覚えている。
それまで、何故か会う度に惹かれていたのに、素直になる事が出来ずに憎まれ口ばかり叩いていた。
けれど、俺の過去を知って欲しいと語っても、変わらず接してくれた彼女。自然と愛称で呼んでいた。
「うさこ」
それにしてもどれ程の時が経ったのだろうか?
うさこはどうしているのだろう?
目覚めたくても、誰かに抑え込まれている感じがして兎に角何も出来ない。
「うさこ!目覚めさせてくれ!」
ずっと見えないうさこの姿を思い浮かべ、強く願う。
すると、
「エンディミオン?」
セレニティが呼ぶ声が聞こえてきた。そして、今まで真っ暗な暗闇だったその場所が、あかりが灯ったように一筋の光が降り注いだ。
うさこの光だ。うさこが俺を求めてくれている。帰れる。いや、帰らないといけない!
ーーー約束のトレードを果たす為にも。
「……まもちゃん?」
「……セーラームーン?」
「……まもちゃん…!」
名前を呼ばれ、目を開ける。やっとセレニティを、うさこの顔を見られる。そう思ってホッとしたのも束の間……。
「ーーー見えない、何も……」
そう、俺は目を覚ましても真っ暗な暗闇の世界しか見ることができず、うさこの顔を見られなかった。
やっと戻って来て、彼女の顔を見られると思っていたのに……。
そして、状況は逼迫していた。クインメタリアとの戦いにセーラームーンは苦戦しているようだった。
目が見えず、何も出来ず足でまといな俺だが、それでも彼女を支えたい。自分が出来る精一杯をサポートしようと決めた。
「消え去りなさい!この聖なる光の力で!!塵となるのよ!」
セーラームーンが放つ渾身の一撃でクインメタリアは消滅した。
彼女を見えない目で探し当て身体を起こすと、冷たくなっていた。文字通り、力尽きていた。
そんな彼女に、労いのキスをする。
目を開けると、目の前に彼女がはっきりと見えていた。
「ーーー見える。君の顔が。はっきりと……見える!」
前世の恋人セレニティと、そして、今の恋人月野うさぎ。うさことの再会。やっと、やっと会えた!
「……まもちゃん……!よかった……!……まもちゃん」
「うさこ、ずっとこうしてうさこを抱きたかった」
「あたし達、結ばれる為に生まれてきたのよ。……まもちゃん、大好きよ」
やっと再会出来た俺たちは、お互いの気持ちを確かめるように、求める様に強く抱きしめ合った。
これからは地球で、堂々と付き合える事に喜びをかみ締めた。
おわり