夢想
目を覚ますとそこは何も無い真っ暗な世界だった。
光も物も何も、何一つ無い黒い部屋。
見渡す限り何も無い、混じりっけの無いただの暗闇。
いや、俺が目を覚ましたと思っているだけで、まだ夢の中にいるのかもしれない。
何も無いところにいるから確証が持てない。俺は一体、何処にいて何をしているのだろうか?思い出せない。
「いや、思い出したはずだ」
そう、大切な何かを思い出していた。
思い出したところで気絶をした。
そこまではたった今思い出せた。
何を思い出したのだろうか?
「うさ、こ……」
そうだ!うさこ。
俺は、最愛のうさこを、セーラームーンであるその子を庇い、敵の攻撃にやられて倒れてしまったのだ。
と言う事は、俺は死んでしまったのか?
うさことはこれからと言う時に……。
いや、彼女が無事でいてくれるのならばそれでいい。
「セレニ……ティ」
そうだ!そうだった!セレニティ!
大切な事。それは、俺が地球国の王子エンディミオンの生まれ変わりで、月の王女のセレニティと禁断の恋をしていた。
そして、そのセレニティの生まれ変わりがうさこであり、セーラームーンだった。
「何故だ?」
何故彼女は、争いなど好まぬ優しい彼女がセーラームーンとして敵と戦っているのだろう?
“幻の銀水晶を探して守れ”
ルナと言う喋る黒猫に言われるがままと言っていた。
月の王女の生まれ変わりであるうさこ。彼女が持っている可能性が高い。幻の銀水晶を守るため、戦士として戦っているのかもしれない。
きっと、持っているだけで危険と隣り合わせになるだろうから。そして、悲劇を繰り返さないためにも……。
生まれ変わり、また出会い、そうとは知らずにまた恋に落ちていた。惹かれあった。
きっとこれからも何度生まれ変わっても知らず知らず、姿形が変わっていても彼女に惹かれるだろう。
「うさこ……会いたい」
よく考えてみると俺は、うさこに“愛している”や“好きだ”と言う所謂愛の告白などはしてはいない。
うさこからも、そう言った類の言葉は聞けていない。ましてや付き合っていたという確信めいたものも無いことに今更気づいて、絶望した。
俺としては、付き合っていると思い込んでいたが、あちらはに鈍そうだ。言葉に出さないと分からないのではないか?
「そうだ、ハンカチ」
うさことトレードしようと約束したあの日。良い雰囲気だった。
うさこを守る事が出来ず、顔を合わせるのに気まづさを感じてはいたが、彼女が話しかけてくれてその優しさに救われた。
その時約束したうさこのハンカチを探そうと身体を触ろうとした。
「…………!!!???」
しかし、どうしたことか触れない。
身体が、無い……だと?
そんな事があるのだろうか?
やはりここは夢の中、と言う事なのだろうか?
だったら早く目覚めなければならない。
だが、どうやって目覚めればいいのだろうか?
考えたくはないが、死んでしまって死後の世界で、もう二度と目覚める事は出来ないのだろうか?
「そんなの、嫌だ……」
先程はうさこが無事ならとは言ったが、本音は違う!やはり、うさこと共に歩みたい。今度こそこの地球で、堂々と。
そして、前世での事やこれから先の未来の話をしたい。
うさことやりたい事、山ほどある。まだ死ねない。そう感じた。