追想


ここの所毎日ゲーセンに通ってる。
別に何も珍しい事では無いのだけど、後ろめたいのはどうして?
まもちゃんに似ている遠藤さんに会いに行っているから?

「うさぎちゃん、こいつは新しくバイトに入ったオレの親友、遠藤だよ」

まもちゃんとトレードしようね、絶対ね!って約束した懐中時計。タキシード仮面が私を庇ってくれた時に止まっていた時計。
それが突然動き出した日に突然現れたその人は、まもちゃんと顔も声も何もかもが瓜二つで。
でも、古ちゃんお兄さんの親友で、大学生なんだって。ーーーまもちゃんじゃ、無いの?こんなにも似ているのに……。

今思えば、トレードの約束をしたあの日が一番の幸せのピークだったかも。あの日に戻りたいな……。

どう言う事なの?
私が知ってるまもちゃんは、高校2年で。
だけど、瓜二つの遠藤と言う人は大学生……。
まもちゃんのお兄さん、なのかな?
ううん、それも多分違うと思う。

まもちゃんの家で初めて目を覚ましたあの日、彼の過去を知った。
6歳の誕生日に事故にあって、両親を無くして、自身の記憶も無くして。天涯孤独だって言ってた。
あの広い部屋で一人暮らしなんて、寂しいだろうな……なんて思ったのはついこの間でーーー。

遠藤さんがどこの誰で、どんな人なのか。
まもちゃんなのか、そうじゃないのか?
知る為にもゲーセンに通い続けてる。
まもちゃんに面影を重ね合わせて寂しさを、彼の以内日々をただただ埋めているのかもしれないけど。少しでも、何か分かればと。その一心で。

「……あいつは地場衛じゃ……ないのよ、うさぎちゃん!」

……分かってるよ、そんなの。私が一番、まもちゃんの事を知ってるんだもん。
ルナが心配して忠告してくる。まもちゃんと会っている時もそう言っていたルナ。
心配してくれてるのは分かっているけど。頭では分かっていても、体が会いたがっていて、勝手にゲーセンに向かっているの。

「セーラーVゲームが上手いんだって?教えてくれないか?うさぎちゃんにお願いしたいんだ」

まもちゃんと同じ顔と声でそうお願いされて、頼られて、断れる人っているのかな?私は無理。得意のゲームで、仲良くなれるなら、なんて考えてた。

だけど、毎日毎日遠藤さんとゲームをしていると、とっても苦しくて切ない気持ちになって行った。
本当だったらこのゲームはまもちゃんと一緒にやっていたんだよね?
ううん、ゲームだけじゃないよ!
今頃はまもちゃんと恋人として、一緒に色んなことをしていたんだろうな……なんて考えただけで胸が張り裂けそうになる。

一緒に帰ったり、まもちゃんの家へまた行ったり。これからの事や前世の事とかも話していたのかな……なんて。
恋人として、これからやろうとしていたこと全てが、まもちゃんとじゃなくて、遠藤さんとの思い出として記憶に残って行くのかな?
そう考えると、悲しくなった。

「エンディミオン……」

銀水晶が出現して、前世であるセレニティとして覚醒したけれど、私はまだまだ前世の記憶を取り戻せては居なくて……。
けれど、エンディミオンとの切ないけれど、幸せだった時間。あの日々は徐々に思い出していた。

よく考えると、私はまだ余りまもちゃんの事を知らない。これから知っていくはずだった。それなのに……
遠藤さんとの思い出に変わっていっちゃうのかな?そう考えると、胸がギュッと締め付けられる。だけど……

「うさぎちゃん、明日もおいで。君の秘密をもっと知りたい、な。うさぎちゃん」

まもちゃんと同じ顔で同じ声だけど、まもちゃんとはまた違う冷たい瞳でそう言われるとーーー引き込まれそう。
また、ゲーセンへ行ってしまう。何でも私の事を話してしまいそう。
……拒めない。秘密を何でも喋っちゃいそう。まもちゃんにそっくりだから。

“うさぎちゃん”じゃ無いよ?
まもちゃんには“うさぎちゃん”なんて呼ばれ方、された事ないよ……。
たんこぶ頭から、お団子あたまになって……“うさこ”って呼ばれるようになったの。

初めて“うさこ”って呼ばれた時は、とても驚いたけど、嬉しくて嬉しくて……ドキドキしたなぁ。
だから、“うさこ”って呼ばれたいの!

だけど多分、もし遠藤さんから“うさこ”って呼ばれたら、アウトなんだろうなって。何となくそう思うの。
まもちゃんじゃ無い。そう判断して、ストッパーがかかっている理由の1つは、“うさぎちゃん”と言うどこかよそよそしい呼び方。

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