フェイク
例えうさぎの生まれ変わりだからと言っても同じ空間に、同じ人物が存在する事はありえない事だ。許されることでは無い。それはコスモスとて解っている。解ってはいても、どうしても衛に一目会いたかったのだ。
「まもちゃん……」
そんな複雑な気持ちを抱えながら、目的地へと歩を進める。
「ここも、変わってないなぁ♪」
最後にコスモスが来た場所、それはゲームセンター“CROWN”だった。
「ここはまもちゃんとの思い出は少ないけれど……」
コスモスは中に入るのを躊躇った。万が一、本物の月野うさぎがいたらどうしよう。美奈子がいる可能性もある。ルナやアルテミスだってしょっちゅうここに来ているのをコスモスは覚えていた。ここは司令室がある場所でもあるのだ。
それにオーナーの元基とも顔見知りだから、見つかると厄介だ。
そう考え、外から中を見渡し、満足したコスモスは踵を返して衛の所へ行こうとした。その時だった。
「あれは……ま、も、ちゃん?」
視線の先、遠く先の方に衛とよく似たフォルムがコスモスの瞳に映った。
コスモスは、逸る気持ちを抑えつつ一歩ずつ歩を進めながら、衛に似たその人物を見据える。
やっぱり運命で結ばれている。そう思ったコスモスは、高鳴る気持ちを抑えきれないでした。
「まもちゃんっっ!!!」
後十メートルと言う所でコスモスは確信へと変わり、その人の名を久しぶりに大きな声で叫んだ。
そして、思いっきり胸の中へと飛び込んだ。うさぎへの罪悪感を胸にそっと、しまい込んで。
「まもちゃん……」
“会いたかった”と言う言葉は既のところで飲み込んだ。この時代のうさぎは、毎日の様に会っている。怪しまれたくはなかった。
衛は何も言葉を発しない。変わりに優しく抱きしめ返してくれた。バレてはいないようで、一先ず安心した。
しかし、騙しているコスモスはここで何も言わない衛に少し違和感を感じた。
姿かたちは衛だが、衛とは何か違う様なそんな気がした。コスモスとして一人孤独に宇宙を守って来た期間が長すぎたせいで勘が鈍ってしまったのだろうか?
それとも反対に疑り深く思慮深く感が鋭くなってしまったのか?
自分が騙している罪悪感から来るものなのか?
「まもちゃん、大好き!」
コスモスは不安を振り払う様に、衛に久しぶりの愛の告白をした。
「うさぎちゃん、俺も愛しているよ」
衛からのその言葉に、ハッとなった。衛から感じた違和感の正体。それを一気に理解した。
「あなた、まもちゃんじゃ……無いわね?」
抱き締められていた身体を話し、距離をとる。そして、敵に向ける様な敵意ある目を向ける。
「あなたは、誰?」
「ふっ俺は、衛だよ?うさぎちゃん」
「嘘!本物のまもちゃんは、私を“うさぎちゃん”なんて呼ばない!」
「はは、うさぎちゃんには敵わないな。そう、俺は“遠藤”だよ」
「遠藤……さん?」
衛だと思い込み、飛び込んだその人は衛では無かった。
コスモスの違和感は、当たって欲しくないと言う心とは裏腹に見事的中した
コスモスと同じで、衛もまた似て非なる人物としてここに存在していた。
そう言えばファッションも、いつもの衛とは違い、牛柄のベストを着ている。何故、ピンと来なかったのだろうか?久しぶりに衛と会えて、何も見えていなかったのかもしれない。
「久しぶりだね、うさぎちゃん」
「……え、ええ、そう、ね」
久しぶりの遠藤との再会だった。遠藤自身も久しぶりらしく、そう言ったが、正直コスモスとしては初めてだった。
「どう、して?」
「うさぎちゃんに会いたかったからさ」
遠藤はうさぎへの想いだけでまた衛と分離したと説明する。
「じゃあ、本物のまもちゃんは今どこに?」
「さぁ?」
「さぁって……久しぶりにまもちゃんに会いに来たのに」
うさぎは本物の衛が何処にいるか分からないと遠藤から知らされ、絶望した。
せっかく平和にここで暮らしている衛に会うためにこの時代を選んだと言うのに、会えないとはなんと言う無慈悲な運命かと絶望した。
「まさか、留学中だったのかな?」
「うさぎちゃん、衛と連絡とってないのかい?」
うさぎの疑問の言葉に今度は遠藤が違和感を抱いた。
「あ、えっと……」
衛の質問に、コスモスはしどろもどろになる。どう答えようか、考えがまとまらない。
「君も、うさぎちゃんじゃ無いね?」
流石は衛のもう一人の人格。勘が鋭い。それ程一途にうさぎを見ていたということか?
「ど、どうしてそう思うの?」
「何処と無く、雰囲気が違う。俺の知ってるうさぎちゃんは儚さの中に弱さと強さがあった。けど、君には凛とした強さと気高さが備わっている。姿かたちはうさぎちゃんそのものだけど、オーラが似て非なるものだ」
「やっぱり、遠藤さんもまもちゃんね」
敵わないと感じコスモスは、観念して正体をばらす事にした。
「君は、誰だ?」
「私は、セーラーコスモス。月野うさぎの何度も生まれ変わった遠い未来よ」
「そう、だからうさぎちゃんのオーラも纏っていたんだね」
「何でもお見通しなのね」
「ああ、でも君のようにすぐには見破れ無かったけどね」
残念だと遠藤はごちる。
「私も最初は見破れなかったわ。おあいこよ」
「優しさはうさぎちゃんそのものだね。じゃあ……」
そう言って遠藤は優しい目を向けながらコスモスに近付いてきた。
「な、何をするの?」
不可解な彼の読めない行動に、コスモスはたじろぎ下がる。
そんなコスモスの腕を掴み、顎を上げ、遠藤の顔が近付いてきた。
コスモスとてこの行動が何をするのか、分かる。寧ろ、ずっとしたくてたまらなかった事だ。しかし……
「わ、私はうさぎじゃあ、無いのよ?」
「そして俺は、衛では無い」
「だから?」
「お互い、偽物同士。なら、互いの本物の想い人のパートナーに罪悪感無く出来る、だろ?」
「あなたに、罪悪感なんてあるの?」
「……いや、無いな!君は?」
「わ、たし……は」
言い終わるが早いか、遠藤の唇がコスモスの唇に触れた。
コスモスは、久しぶりのそれに身体中に電気が走ったかのように痺れた。何も考える事が出来なくなってしまい、動けなくなった。遠藤の思う通りの操り人形となり、流れに身を任せた。
「えん、どう、さん……」
長いキスの後、離された口からコスモスはやっとの思いでそう呟いた。
遠藤の言う通り、うさぎへの罪悪感は皆無だった。それどころか、身体が悦びに震えて、もっと、もっとと狂おしいほど叫んでいた。
そして、自ら遠藤に今度は最初から深い口付けを落とす。
遠藤は、求められていることが嬉しくて、彼女の行動に答える。
コスモスと遠藤は限りある時間、必死に求め合い愛し合った。遠藤が満足して消えてしまうその時までーーー
おわり
20230401 エイプリルフール