フェイク


「やっぱりここは落ち着くなぁ~」

羽を伸ばして平和な空気にホッとしているのはセーラーコスモス。月野うさぎの姿を借りて地球に来ている。うさぎの遠い未来の究極の姿だ。

本来ならばセーラーコスモスはここにはいない。いる事を許されない。
彼女がいるべき場所はここでは無い。太陽系外の射手座Aスターにあるギャラクシーコルドロン。そこの守護戦士として宇宙の平和と秩序を保つ為、一人孤独に秩序を乱す混沌、即ちカオスと幾度と無く戦っている。

更に彼女は、この時代の人間では無い。はるか遠い未来から時空も場所も飛び越えて、今この地球と言う場所に久しぶりに訪れていた。

前回は戦いのさなかの地球に、ちびちびと言う小さな体になって銀河の行く末を、そして間違いを正そうと姿かたちを変えてセーラームーンを見守っていた。

それ以来の平和な時代の地球を選び、この時代のこの地へ降り立ち、平和な空気に浸っている。

「やっぱり、平和っていいなぁ~♪人もたっくさんいるしぃ~」

セーラーコスモスがいつもいる場所は、人がほとんど来ないところ。人っ子一人いない。文字通りの孤独な場所だ。
人がいない代わりに、星々はいつも光り輝く世界。

前回の訪問は、戦いがある事が前提として覚悟の上この地へ来たが、何度経験してもやはり愛する人や仲間が次々と自分の為に死んでいく姿を見るのは苦しくて、辛かった。
それでも、諦めずに昔の自分が輝きを失わずに戦っている姿を見て励まされた。

恋人に会うことは、辛くて出来なかったけれど、それでもセーラームーンに諦めない勇気を貰った。

そして、今回は平和を取り戻した地球を選んだ。平和な地球を久しぶりに満喫したかった。
と言うのは建前で、本音は……

「まもちゃんに会いたい……」

永遠の恋人である地場衛、その人に会いに来たのだ。
長い間孤独に宇宙を守ってきたのだ。ほんの一瞬でも衛と甘い時間を過ごしてもバチは当たらないだろう。そんな軽い気持ちでコスモスは、守るべき場所から離れ、地球へと降り立った。

「懐かしいなぁ……」

コスモスは、地球へと降り立つ行動に懐かしさを感じていた。
それは遠い遠い過去。月の王女、セレニティとして恋人のエンディミオンのいるこの地へ降り立った。
あの頃も、軽い気持ちで月から地球へ降り立っていた。守護戦士たちを困らせながら。

「あの頃から私、ずっと地球が大好きで、憧れてたのよね。コスモスになっても、何にも変わらないな、私」

くすくすっと過去の自身の行動を振り返ってコスモスは笑った。
結局、何度生まれ変わってもコスモスにとって地球は魅力的で憧れの地。心を捉えて離さない。その地球を守る地場衛も、どれだけの時が過ぎても心から離れる事無く、思い続けた。
地球は彼女にとって原点。いつも帰りたい。そんな場所だった。

その為、幾度生まれ変わってもまた地球人として生まれ、月野うさぎとして生きていきたいと銀水晶に願った。
彼女に忠実な銀水晶は、それをいつも叶えてくれた。その度、同じ人生を歩んだ。
前世の記憶をなくしながらも、戦士として戦う中で地場衛と恋に落ち、人生をキングとクイーンとして、時に普通の人として歩んで来た。苦楽を共にしてきた。
戦いのある人生は、決して楽しいとは言い難かったが、愛する人や仲間が傍にいる事と言う事は恵まれていたと痛感した。

「早く会いたいな……」

コスモスは流行る気持ちを抑えつつ、久しぶりの麻布十番を満喫していた。

このまままっすぐ衛に会いに行くのもいいが、運命で結ばれているならまた偶然約束も無く会えるだろう。彼女は運命を演出したかった。

「思い出の地を巡ってみよう」

久しぶりに降り立つ地球。懐かしい土地を足で、体で、全身で感じたかった。一歩一歩、地球を噛み締めながら歩を進めた。
うさぎの姿のコスモスは、衛との思い出の地を巡ろうと決めた。

最初に出会った親友大阪なるの母親が営んでいる大きな宝石店“OSA・P”。
次に会ったクリスタルゼミナールの跡地。その次は火川神社だが、レイや和永と鉢合わせると流石に気まづいと思い、そこには行けずにいた。
初めて一緒に踊った大使館。ハンカチと懐中時計をトレードしようと約束した公園。衛がエンディミオンの生まれ変わりだと前世を思い出した東京タワー。

「どこもあの頃と変わらないな」

変わらない場所の数々に、コスモスはホッと胸を撫で下ろす。

「やっぱりここは、思い出が多いな」

思い出の地を巡っているのだから当たり前だが、余りにも思い出が多過ぎて、コスモスは胸が苦しくなってきた。

泣きそうになるのを抑えながら、最後にと彼女はある場所へと向かう事にした。

残念ながら思い出の地を巡っても、衛と運命的な出会いは出来なかった。
やはりコスモスとしては衛は運命の恋人では無いからだろうか?
今ここには本物の月野うさぎがいる。
それが何よりの違いかもしれない。

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