セーラーコスモスSSログ



『幻想花火』


夢見心地。正にその言葉が相応しい。
また地球でこうしてこの人とこうして花火を見られるなんて。
ただ嬉しいのに、虚しい。隣にいるのはまもちゃんだけれど、まもちゃんじゃない。別の人。
瓜二つだけれど、まもちゃん本人じゃなくて。まもちゃんのコピー。
仕方ない。贅沢なんて言えない。私だってうさぎの用紙を借りているコピーのようなものだもの。
まもちゃんのコピーのその人の名は、遠藤さん。かつてうさぎに近づく為に悪の組織に寝返ってしまった洗脳された姿。
私の名はセーラーコスモス。遠い未来と時空を超えてやって来たうさぎの生まれ変わり。二人ともこの地球に存在することすらありえない。
それでもお互いが互いを思う気持ちで遠藤さんはここに存在しているし、私も時空を超えて来ている。
利害の一致でこうしてたまに“ホンモノ”の目を掻い潜って会っていた。
この感覚はまるで月の王国のプリンセスをしていた時と似ている。許されないことをしているという感覚は持ち合わせている。
でも、それを上回るほど孤独なあの場所に一人いるのは辛いし、まもちゃんに会いたかった。

「やっぱり花火は綺麗ね〜」

星々も綺麗だけれど、いつもみな同じ様にしか輝かない。
何より隣にまもちゃんがいないのに感動なんて出来ない。
もっと言えばこの星々一つ一つには守護戦士がいる。この輝きは、その戦士の力によるものが大きい。

「君とこうして花火が見られる日が来るなんてね」

まもちゃんと同じ顔で、まもちゃんとは違う少し冷たい笑顔でそう言われ、ドキリと胸が高鳴った。
その笑顔に、やっぱりまもちゃんであってまもちゃんでないことをまざまざと突きつけられて胸が締め付けられる思いがした。

「私も、あなたとこうして会えることが嬉しいわ」

例え本物では無くても、今の私にはこれで充分で。幸せなことだって分かっているから。

「二人でも、思い出を作って行けたらいいな」
「ええ、そうね」

これからも会おうと直接では無い言葉で未来の約束を交わす。幸せだ。彼の未来に私がいることが。それが当たり前であることが、何より嬉しい。
嬉しい、はずなのに……。

「あ、れ?涙が……」

目から涙がとめどなく溢れてくる。
幸せなはずなのに、何故?

「大丈夫かい、コスモス。君はずっと変わらないね、生まれ変わっても」
「え?」
「泣き虫うさぎちゃんのままだ」
「もう、遠藤さんったら!」
「花火は一瞬で儚いものだけど、俺たちはこれからもこうして存在することが出来るんだ」
「そう、ね」

コスモスである私は勿論、遠藤さんも寿命なんて概念は無い。
私が求める限り、遠藤さんはこうして私のそばにいてくれる。

「遠藤さん、ずっと傍にいてくれる?」
「君が望むなら」
「じゃあ、私の居場所にも一緒に来てくれる?」
「行けるなら、行ってあげたいよ」

このまま遠藤さんを奪い去りたい!
だけど、それは無理な話で。
まもちゃんのいる地球以外では存在すら出来ないなんて。
私がここに来るしか会える手段がないのがもどかしい。

「私はいつでもここで待っているよ」
「また、来るね」

次に会える約束が出来る幸せ。
私の名はセーラーコスモス。
花と宇宙の名前を持つもの。
でも私は花火のように儚くなんかない。
一番強く、永遠の命を与えられし者。
確かに存在する戦士。
彼が待っていてくれる限り、私はまた地球に来る意味がある。




おわり

20240914 秋桜の日



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