時をかける少女



side コスモス




目を覚ますと、そこはかつていた部屋にいてベッドに寝ていた。
見慣れた天井に、見飽きた部屋。
だけどそこには永年感じていなかった人の温もりが存在した。

「落ち着くわ」

温かいベッドで寝るなんて何年ぶりの事かしら?
ずっとここにいたい。素直にそう思った。ここにいれば孤独じゃない。一人じゃないのよね。何て素晴らしいの。

「今はいつかしら?」

独身時代の月野うさぎである事は明白だった。浮ついた心でも、状況把握はちゃんとしなきゃとカレンダーを見る。

「大学生時代ね!」

カレンダーと部屋にあるものを見た私は瞬時に理解する。
大学生のうさぎと言う事は、まもちゃんとラブラブキャンパスライフを送っている時期ね。羨ましいわ。
机に置かれたスマートフォンを手に取ると今日は土曜日。つまりは休み。
手帳を見ると“14時、まもちゃんとデート♡いつもの一ノ橋公園で”と書かれていた。
私は、用意して出かけることにした。

「まもちゃん、お待たせ〜♪」

やっぱり私より先に待っていた久々に会う愛しのダーリンを見つけ、笑顔で手を振る。
私の声に反応したまもちゃんはこちらに顔を上げて手を挙げにっこりと微笑みかけてくれた。

「まーもちゃん♡うふふ」

いつもの様にまもちゃんの腕に手を絡ませて喜びを爆発させながらしがみついた。

「まもちゃん、どうしたの?」

目を合わせないばかりか、くっつこうとした私を離し、私から離れようとした。

「ねぇ、まもちゃん!何とか言ってよ!」

私から視線を逸らしたまもちゃんの目に映ろうとまもちゃんの顔に近づく。
けれど、やっぱりそっぽを向かれてしまう。
一人孤独に宇宙を彷徨っていた事を思えばこんなのなんでも無い。視界に入りたくて何度も繰り返した。まるでイタチごっこだ。

「お前は、誰だ?」
「え?」
「うさじゃないだろ?」
「……へぇー、流石はまもちゃん。お見事ね」

やっぱり瞬時に私が月野うさぎでは無い事に気づいていたみたい。本当、どれだけうさぎの事が好きなのよ。

「妬けちゃうな」

まもちゃんに無償の愛を注がれるうさぎが単純に羨ましかった。私だってうさぎなのに。やっぱり違うんだね。

「そうよ、私はうさぎじゃないわ」
「うさは、どうした?」
「そんな怖い顔で凄まなくてもいいじゃない」
「お前は誰だ?うさを何処へやった?」

まもちゃんの形相から、私をうさぎのコピーで敵だと思っているみたい。当然よね。ずっと、敵と戦う人生を送り続けていたんだもの。危機察知能力が付いていてもおかしくはないわ。
特にまもちゃんは前世から戦う騎士だった。王子様だけど、剣術は立派なものだったし強かった。それもあって好きになったのよね。
まもちゃんはうさぎの為に誰より研ぎ澄まして危険を察知して守らないとダメだもの。それでいいのよ。そうあるべきだわ。

「やだぁ、こわぁい」
「はぐらかすな!」
「敵じゃないから、安心して」
「それはこっちが決める事だ」

それにしても本当に疑り深い。今までの事で耐性が着いてしまっているのは分かるけど、もう少し肩の荷をおろせばいいのに。

「私はまもちゃんの推測通り、うさぎじゃあないわ」
「じゃあお前は誰だ?何故、うさと同じ姿形をしている」
「うさぎと心が入れ替わったのよ」
「何を言っている?」

私は本当の事を話し始めた。
でも、それは彼にとっては混乱する事実で、困惑の顔を露わにしていた。

「私は、来世のうさぎだから多分、何らかの形で同調して入れ替わってしまったみたい」
「来世のうさ、だと……」
「ええ、信じられないかもしれないけれど、うさぎは死んだ後もまたセーラー戦士としてこの世界にーー宇宙に君臨するのよ」
「どう言う事だ?」

私の口から語られた衝撃の事実に、まもちゃんは打ちのめされているみたいだった。無理もないわよね。

「クイーンとして生涯を終えたあと、セーラームーンはその姿形を少し変えてセーラーコスモスとなり、カオスから宇宙を守る戦士をするの」
「そんな、バカな……」
「これは運命。月の王国に伝わっていた伝説。一人孤独に宇宙を彷徨う戦士」
「一人孤独にって、じゃあ俺やヴィーナス達は……?」

絶望するまもちゃんの問いかけに、私は瞼を閉じてゆっくり首を左右に振った。

「そんな……」

未来に、うさぎの隣にまもちゃんや仲間のセーラー戦士がいない。この事実に、受け入れ難いようで、絶望していた。

「ずっと、孤独だった。寂しかったの……」
「うさ……、いや、君の名は?」
「……セーラーコスモス」
「セーラーコスモス……」
「やっと、目を合わせて名前を呼んでくれたね」

ずっと視線を逸らし続けていたまもちゃんは、衝撃の未来と私の名前を聞き、やっと私を見てくれた。

「一人にして、すまない」
「ううん、遠い遠い未来での事よ。今のあなたには関係無いわ」
「でも、それでも。うさが一人を願うわけが無い。俺も、うさを一人にするはずが無い!そんな未来はあってはいけない」
「ありがとう。そう言って貰えただけで嬉しいわ」

まもちゃんは未来に自分がいない事への罪悪感に絶望していた。
どうして自分がいないのか。なぜ一人にしているのか理解できないようだった。

「ずっと、未来永劫、俺はうさが存在する限りどんな姿形でも生まれ変わってそばにいる!絶対に一人にはさせない!例えそれが来世であってもだ」

まもちゃんは力強くそう宣言してくれた。胸がいっぱいになっていくのが分かる。まもちゃんは、やっぱりずっとうさぎの事が大好きなんだと言う事が伝わって来る。
何度生まれ変わり、姿形が変わってもまもちゃんはうさぎを見つけ出してくれる。また恋をする。愛してくれる。

「うさを一人になんてしない。一人孤独が悲しい事を誰よりも知っているから。うさが俺の孤独を救ってくれた様に、俺もうさを絶対に孤独から救う」
「うさぎは幸せ者ね」

やっぱり妬けちゃうわ。こんなにもまもちゃんに愛されているんだもの。
私も、孤独の中に希望を持てそう。ううん、持ってもいいのよね?
まもちゃんの愛に触れて、私は満たされていくのを感じた。

「大好きよ、まもちゃん。ありがとう、愛しているわ」

抱き締めてそう言って目を閉じるた。
そして、次に目を開けると私はいつものギャラクシーコルドロンで宇宙を彷徨うセーラーコスモスとしてそこに立っていた。




おわり

20240129

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