時をかける少女
side うさぎ
目を覚ますと、そこは壮大な銀河の中だった。
「ここは、どこ?」
辺り一面に広がる闇と綺麗な星々。見たことも無い場所と光景に、戸惑いを隠せなかった。
「綺麗なところ。でも、とっても寂しい場所ね」
見渡す限りに広がる壮大な銀河に圧倒される。
星々は近く、いっぱいあるけれど、人っ子一人いない。そう、正に孤独だと感じた。
「これは……?」
ふと左手に持っている物が気になった。
これは、ロッドかしら?
ロッドに映る自分を見ると、戦闘服と思しきものを見に纏っていた。その戦闘服は、どこかで見たことがあると引っかかる。
「もしかして、ここは……?」
暫く考えを巡らせていると、過去の記憶が急に蘇ってきた。思い出したくない記憶。胸の奥にしまい込んでいた記憶が、脳裏を駆け巡った。
「ここって?それに、この姿……」
ここはまさか、ギャラクシーコルドロン?
この姿も、一瞬だけど見覚えがあった。
そう、ギャラクシアとの戦いの時に来た射手座Aスターの中にあるギャラクシーコルドロン。そこで見た私とそっくりな、でもどこが違う戦士のこと。凛として神々しい。だけどどこか寂しそうな瞳を持つセーラー戦士。
「私は今、その戦士そのものってこと?」
今、自分が置かれている状況が全く分からず狼狽える。
前後の記憶が無い。死んでしまって、別の戦士になってしまったのか。それとも、ただの夢なのか。夢だとすれば、何てリアルなんだろう。
この戦士は何なんだろう。何故あの戦いで名前や詳しい事を聞かなかったのか、後悔した。
あの時はただ目の前の敵と現実を受け入れるのに精一杯で、心に余裕がなかった。
「あなたはセーラームーン、ですね?」
「あなたは、ガーディアンコスモス!?」
「お久しぶりですね」
ギャラクシーコルドロンを考えながら彷徨っていると、突然話しかけられハッとする。
声の方を見ると、そこにはあの時の姿のままのガーディアンコスモスがそこにいた。
「久しぶりと言っても私はほんの僅かな時間だけれど」
「姿形が違うけれど、分かるのですか?」
「ええ、オーラが違うもの」
姿形が違う私の事をセーラームーンと言い当てられた事に驚きと戸惑いを隠せず質問する。
オーラが違うと言ったけれど、私にはよく分からない。ガーディアンコスモスは何でもお見通しだと感じた。
「あの、ガーディアンコスモス……」
「何でしょう?」
「私は、この姿は……?」
身に覚えのない、けれど一度だけ目にした事のある戦闘服に身を纏っている姿に疑問を抱き、質問した。
きっとガーディアンコスモスなら知っているはずだと確信を得たから。
「貴女のその姿はセーラーコスモスと言って、宇宙を守護する戦士よ」
「セーラーコスモス……」
そんな戦士が存在しているなんて知らなかった。
それぞれの星にセーラー戦士が存在し、星を守っている事はあの戦いの最中知り得たことだった。けれど、セーラーコスモスの事は聞いていなかった。
まだまだ知らない戦士がいる。勉強不足に呆然となった。
「本来、未来を知る事はタブーとされていますが……」
暗い顔をして重い口を開いたガーディアンコスモスは、そう前置きをして話し始めた。
「セーラーコスモスは貴女の死後のーー来世の貴女の姿」
「え?」
ガーディアンコスモスの口から語られた衝撃の事実に驚きを隠せ無かった。
「セーラーコスモスと言うのは元来、月の王国のクイーンの来世の姿と言い伝えられているのです」
私が知らなかった月の王国の言い伝えを、ガーディアンコスモスが語り出し、知らない事実に打ちのめされた。
「じゃあ、この姿は未来の、死後の……私?」
「ええ、貴女の姿。ここでずっと一人でカオスから宇宙を守っているのよ」
「一人……」
“一人で”と言う言葉が私の心に重くのしかかった。
死んだ後も私は戦士として宇宙で戦わなければいけない運命にある事に絶望した。
「きっと、未来の貴女だから同調してしまい、心が入れ替わってしまったのかも知れませんね」
「と言う事は、今頃は本物のセーラーコスモスは私の中に?」
「そう言う事になりますね」
「じゃあ、どうすれば?」
本来ならば知らずに済んだ未来。それをこんな形で知らなければならないなんて。
ううん。本当は月の王国でプリンセスをしていた時に学んでいたはずの未来。それを私は、目を背けていた。未来の無い恋に鬱つを抜かしていた。
“戦いは終わらないわ。あなたが背負っていくのよ、セーラームーン”
あの戦いの中でちびちびに言われた言葉が突き刺さる。
その真意を深く分かっていなかった。
月野うさぎとして、そしてクイーンとして星々を守る役割をすると思っていた。
千年。高々では無いけれど、それだけの辛抱で済むと思っていたのに、まさかまだその先もあるだなんて。
戦いの中でクイーンをしている事だって驚いたのに、来世の事まで知る事になるなんて思いもしなかった。
「まもちゃん……」
絶望の中、今最も会いたくて恋しい人の名前を呼ぶ。
きっと彼が何とかしてくれる。そう信じて瞼を閉じて私は祈り始めた。