セーラーコスモスSSログ


『チョコレートコスモスが咲く頃に』


「ん~、いい香り」

鼻腔を甘い香りが支配する。幸せな香りに包まれて、ホッと一安心した。

「チョコレートコスモス、今年も綺麗に咲いたわ」

辺り一面に咲き誇るチョコレートコスモスを見渡し、満足する。
チョコレートコスモスの見頃は八月から十月にかけて。大好きな彼が大好きだったチョコレート。その見頃が彼の誕生日がある月なのは、何の巡り合わせなのだろう。

セーラーコスモスとして生まれ変わった私、月野うさぎはかつての恋人であり、夫だったまもちゃんが大好きだったチョコレートをコスモスと言う花として毎年この時期に育てている。

勿論、ここコルドロンでは花を育てる環境には無い。射手座Aスターの星々も適していない。

では、どこで育てているのか?
地球?否、それも今はまもちゃんも、エリオスも、ちびうささえも地球を守護するべき戦士が誰もいない。今はただ主なきその星はかつての月のように死の星となり、次の主の誕生をずっと待っている状態。

そこで私は考えた。地球が死の星となったのなら、似た様な星を作り出せば良いのだと。
そう、地球のAIをロッドでコルドロンの近くに作ったのだ。
その星は本当に地球にソックリで、花を育てるのにも適していて。月野うさぎとしてはそれ程向いていなかったガーデニングがセーラーコスモスとしては上手く、才能が開花した。
庭師ーースターガーデナーであるセーラーΦとセーラーΧの力も借りたと言うのもあると思う。

「本当に花を育てるの?」
「ちゃんと出来るのかしら?」

二人はそんな憎まれ口を叩いていたけれど、楽しそうに協力してくれた。
二人の力添えもあり、一面立派に咲き誇るチョコレートコスモスを見て笑顔になる。
外見は美しいとはお世話には言えないけれど、それでも花を愛でるのは心が踊る。
セレニティの時から花の魅力に取り憑かれて止まない。

「まもちゃん、今年も綺麗にチョコレートコスモスが咲いたわ」

どこにも居ない彼を想いながら、呟く。
彼が大好きだったチョコレートは、私もずっと大好きな食べ物で。まもちゃんを思い出すといつも傍にチョコレートがあった。私の恋の思い出でだ。

セレニティの時に恋に落ちてから、月野うさぎとして地球で出会って命尽きるまでずっと一筋で、この身を全身全霊で愛してきた。
その気持ちはセーラーコスモスになっても変わらない。絶対的な移り変わら無い気持ち。

「まもちゃん、寂しいよぉ」

何処にいるの?
私はここでずっと待ってるのよ?
まだ、その時じゃないのかな?
貴方の大好きなチョコレートコスモスが今年も綺麗に咲いたんだよ?
上手く咲かせられたね!って優しい声で褒めて欲しいよ……

「お誕生日おめでとう、まもちゃん」
「ありがとう、うさ」
「え?」

声が聞こえた方向へと振り返る。
そこには、会いたくて会いたくて堪らなかった愛しい人が立っていた。

「まも、ちゃん……?」
「ああ」
「本当に、本当の本当に、まもちゃん……なの?」
「ああ、待たせてごめん!」
「ううん」

立ち上がり、まもちゃんが立っている所まで駆けていく。
そしてその胸に、何の迷いもなくダイブする。優しく抱きとめてくれて、懐かしい感覚に本当にまもちゃんなんだ。ちゃんと存在しているんだと感動して、涙が溢れ出た。

「まもちゃん、会いたかった。会いたかったよぉ」
「俺もだ、うさ」
「でも、どうして……?」
「チョコレートコスモスと共に俺のスターシードも育って行ったようだ。恐らく、セーラーΦとセーラーΧの力のおかげだろう」

庭師である二人。スターガーデナーの二人はスターシードを育てる力も備わっている。
そっか。星も種から生まれるもんね!
ギャラクシーコルドロンからまもちゃんの星を見つけてくれていたのかも知れない。
地球に似た星を作り出したのも甲を制したんだと感じた。

「まもちゃん、お誕生日おめでとう。生まれてきてくれて、生まれ変わってきてくれて本当にありがとう」
「ありがとう、うさ。うさがずっと頑張ってくれていたお陰だ」

重なった視線は熱くぶつかり、やがてゆっくりと唇が重なり合う。




おわり

20230803 地場衛生誕祭2023



追記
チョコレートコスモス
見頃  :8月〜10月
花言葉 :「移り変わらぬ気持ち」「恋の思い出」「恋の終わり」

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