はるみちSSログ


『青がすんでいる』


うさぎと同じ高校に通う事になり、みちると自転車を二人乗りで登校することにした。
まさか世界中を試合で渡り歩いて、子育てをしまくって今更高校生活をする事になるとは思いもしなかった。

「学校に通う意味が見当たらない」

そう乗り気では無かった僕に、みちるは信じられないと言う顔で言ってきた。

「意味ならいっぱいあるわ!うさぎを近くで見守るためよ」

それが一番大きな意味と理由。だから十番高校を選んだ。

「ほたるの成長は安定して来たし、私たちも年相応に学生生活を送るべきよ!」

高校生活と共に始まった、デス・バスターズとの戦いと、セーラーサターン抹殺と言う戦士としての生活。ほとんど集中出来ないまま無限学園での生活は終了してしまった。

赤ん坊として生まれ変わって来たほたるを一手に引き受けて子育てしたみちると僕、そしてせつな。
これら全ての事を自身で決めて送った日々。後悔は無い。
そのお陰で世間ズレしたとしても、前世の記憶を持ち戦士の道を選んだ事に誇りを持っている。

「私たち戦士としてだけじゃなくて、他にも才能があったが為に大人びてしまった部分があるじゃない?だから、ちゃんと高校生活を送って、普通の感覚を取り戻さなきゃ!修正が効く間に……」

戦士をやる以前から大人に囲まれヴァイオリニストとして活動していたみちるの言葉は重みと説得力がある。
出会った時から大人びていたみちる。本当は年相応に遊びたかったんだろう。

「異論は無いよ。確かに普通の感覚を取り戻すことは大事な事だ」

正直、勉強は得意じゃないがせっかく平和になったんだ。普通を楽しみたいと言う気持ちは分かるし、何よりみちるとまた高校生活が送れる。それは喜ばしい事だった。

「ねえ、今度はセーラー服よ!はるかも着るでしょ?」
「え、いやぁ……僕は」
「えぇー、同じセーラー服着てオソロで登校しましょうよ、はるか?」

やんわり言っているが、暗に一緒のセーラー服を着ないと許さない!と言う意志を感じる。笑顔だが、目の奥が笑っていない。怖い。
これは従わないとあとが怖そうだ。

「分かったよ」

みちるが怖いと言うのも理由にあるが、色々考えた結果、その方が都合がいいと言う結論に至った。

そして実際に登校すると、みちるはとっても楽しそう。みちるが楽しいなら僕も楽しい。

みちるが部活に入ったので、僕も陸上部に入る事にした。これが結構楽しい。
みちるもブラスバンド部と水泳部の掛け持ちで、文字通り遅れてきた青春を謳歌している様子。それはいいんだけど、プロのヴァイオリニストとして活躍していてプロオケにも何度も参加していたみちるがアマチュアの学校の部活に満足出来ているのか謎が深い。

「ヴァイオリンも水泳もプロ並みなのに、満足出来ているのか?」

気になってつい聞いてしまった。

「ええ、楽しいわよ。ワイワイ言って演奏するのは刺激になるし、みんないい笑顔してるんだもの。プロとはまた違った感覚で楽しいわ。はるかも、そうでしょ?」
「ああ、確かにそうだ」

プロでは味わえない部活動特有の必死さや楽しさがある。プロとは違う刺激が貰える。
同い年の子から受ける刺激は楽しい。
みちるは特にその感覚から遠いところにずっと身を置いていた。小さい頃から大人の中に身を置き、高みを目指して来た。
だからこそ、高校での部活動はみちるにとって今まで味わったことの無い感覚なのだろう。
年相応に生きる事の大切さを身に染みて感じているに違いない。

「はるかも楽しそうじゃない?」
「ああ、忘れていた感覚を取り戻しているって感じかな」
「久しぶりに女子生徒からキャーキャー言われて慕われて」
「何だよ、みちる。妬いてるのか?」
「うふふ、そうかも」
「君もモテモテだね。流石は僕のみちるだ」
「まぁ、はるかったら」

学校でのみちるは、良い笑顔をしていた。
戦士や子育て、プロとしてヴァイオリンを演奏している時はしっかりとした大人の顔をする。
しかし、学校でのみちるは全くそんな顔を見せない。ちゃんと普通の女の子で、その名の通り青春を謳歌していて、年相応の女の子になっていた。

無限学園で一緒に通っていた時には見られなかった心からの笑顔に、もう一度高校に通えて心から良かったと思えた。




おわり

20231219

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