はるみちSSログ


3月3日、ほたるの為にとみちるとせつなが用意した雛人形を飾り、初節句をした。
そこから三日後はみちるの誕生日。母親として頑張っているみちるきってのお願いで、3日を過ぎても我が家は雛人形を飾らなかった。

「良いのかい?嫁に行くの遅れても」

僕は構わないけど。と言う言葉は言わずに、しかし暗に含んだ言い方でみちるに尋ねる。
古来より、雛人形を早く仕舞わなければお嫁に行けないと言う何ともバカバカしい言い伝えが存在していた。勿論、そんな事は信じてなどいない。
しかし、やはり女の子と言うと早く結婚したいものだろうから、早く片付けたいのではないかと考えていた。

そして、この場合の対象はみちるにというより、主役であるほたるを指していた。
母親として、ほたるにどうなって欲しいのかは分からないが、結婚出来ないのは嫌では無いのかと思ったのだ。

「数日くらいなら、いいのよ」
「君がそう言うなら、従うよ」
「ありがとう、はるか」
「君の幸せが僕の幸せだから。でも、誕生日に雛人形を拝みたいなんて、意外だった」

桃の節句の三日後が誕生日のみちる。それは知っていたけれど、まさかひな祭りに積極性があったとは意外で僕は単純に驚いた。

「そう?海王家は洋風だったから、雛人形すら買って貰えなかったのよね」

だから普通の日本人としてイベントを楽しみたいと少し暗い表情と少し低めの声で寂しそうに説明してくれた。
そうか、元々良家のお嬢様。普通とは無縁。それは知っていたが、実際はどんなものか分かっていなかった。
彼女ほど普通とかけ離れてしまった人はいないだろう。良家のお嬢様に加えて、セーラー戦士だもんな。人一倍、普通に憧れがあるに違いない。

「ほたるにも普通の女の子でいて欲しいの」
「みちる……」

普通とはかけ離れた生活をしていたからこそ、ほたるには普通でいて欲しいとみちるは誰より願っているようだ。言葉が重い。

「そうだな、ほたるも前は色々普通では無かったからな」
「そう、だからこそ普通を大切にしたいの」

ほたるの壮絶な人生を想うと、余計に普通である事の有難みが身に染みる思いがした。
母親が死んで、マッドサイエンティストと呼ばれる程に変人と化した父親。ひな祭りと言うものもして貰えなかっただろう。

「じゃあこれからは普通を大切に生きていこう」
「ええ」

今も普通とは違う僕たち。みちるは僕とせつなと三人でほたるの子育てをする事を選んだ。今の日本では僕たちは婚姻関係を結べない。それでも、みちるはこの生活を自ら率先してこの道を迷わず生きていきたいと決めた。
学校に行きながら子育てとプロのヴァイオリニストとして演奏会に出演する日々。充実しているとはいえ、やはり普通とは違う。

そんな彼女きってのお願い。

“誕生日に雛人形を愛でたい”

仕舞わず飾り続けるだけだから、お易い御用だった。
ただ、やはり気になるのが“婚期を逃す”と言う言い伝え。僕はほたるとずっといつまでも一緒に暮らしたいから大丈夫だけれど、みちるやせつな、そしてほたる自身がどう考えているかが心配だった。寧ろ、その一点のみ不安要素だった。

「はるかは心配症ね」
「それでなくてもほたるは成長早かっただろ?」
「あっという間に大人になってしまうかもしれないわね。うふふ」
「楽しそうだな、みちる」
「ほたるの成長は楽しいわ」

出会った時から大人の様な雰囲気をまとていたみちる。母親になり、ほたるを育てて丸くなった気がする。

「母親業お疲れ様。いつもありがとう。そして誕生日おめでとう、みちる」
「うふふ。ありがとう、はるか」

本当は誰よりも女の子で、普通に憧れを持つみちるのセブンティーンの誕生日に、心からの祝福を。




おわり

20230306 海王みちる生誕祭2023
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