目覚めの刻


この世に生を受けてから身体にずっと違和感を持ち続けて生きてきた。

小さい時から身体能力が人よりずば抜けて高く、どんなスポーツをやっても僕を超える奴がおらずいつもダントツ1位でつまらなかった。

小学生の時は特にそこまで気にはならなかったが、中学に入ると段々胸が膨らんできて大きくなってきて、自分の意志とは裏腹に女の身体になっていっていることに少なからず違和感と嫌悪感で苦しくなってきた。

そんな時、追い打ちをかけるように大人の女性の象徴である生理が来たことが更に絶望の縁に立たされる出来事だった。

やはり僕は男ではなく女なのか?と運命を受け入れなくてはならない時がついに来たのか?

そんな事で悩み悶々としていた折、同じ夢を繰り返し見るようになり、また新たな悩みが増えてしまった。

夢の中では薄ぼんやりと見える姿から、見知らぬ髪の毛がロングのウェーブがかったとても美人な女性が手に鏡を持ってどこか憂いを帯びた顔でコチラに何か囁いてくる。

最初は何を言っているか全くわからず気にも止めていなかったが、毎日の様に同じ夢を見るにつれて少しずつ言葉が聞き取れるようになってきた。

「タリスマンを」

最初はその一言だけだったから気にも止めていなかった。
だが、夢を見るにつれて言葉は増えていき、女の人もハッキリと見えるようになってきた。
その女性はセーラー服を思わせる様な出で立ちをしているが、学生服として着るにはとても派手で露出度が高く、とても寒そうな格好だった。
顔はとても美しく気品溢れるその女性からは想像もできないほどつむぎ出される言葉は恐ろしい言葉ばかりで、そのギャップに驚く。

「3つのタリスマンを、お願い。世界崩壊の危機が迫っているの」

彼女の言うタリスマンが何なのかが分からないし、どう探せばいいのかも分からない。
そして彼女が何者なのか、敵か味方か信用していい相手なのかも分からないのに世界崩壊の危機を救わなきゃいけないなんてバカバカしい!
彼女が誰かは知らないけど、1人でやればいい。僕を巻き込まないで欲しい。
日に日に夢の中での世界崩壊の風景が壮絶になって行くけど僕には関係ない。
世界崩壊がこの地球が選んだ運命なら僕達人類はそれを絶望しながらも受け入れてその時をただ待つほかない。何もすること、出来ることなんて無いと思う。抗うなんてそんな事が出来るはずなんかないだろうと思う。


そんな折、天王家代々から伝わり、大切に厳重に保管されてきた家宝の“剣”に異変が生じている事が判明した。
今まではそんなに興味なんて無く、あまりまじまじと見たりしていなかったし、深く考えた事すら無かったが、この剣は一体なんなんだ?
言い伝えやこの剣にまつわる話など一切何も聞かされていない。いや、自分が興味なかったから聞いていたのかもしれないが、聞き流していただけかもしれない。
あの派手で露出度の高いセーラー服みたいな者を着た高貴な女性が夢に現れ、世界崩壊の映像が強くなって来たタイミングで異変が生じた剣は何か関係があったりするのだろうか?


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