BIRTHDAY RHAPSODY
ー9月10日、誕生日当日ー
時計を見るとちょうど15時になっていた。
大学はまだ夏休みで、亜美が学校の間はただ暇だからとゼミの課題に取り掛かったら集中してついのめり込んで時間を忘れて勉強してしまっていた。
私も亜美の事言えない、勉強好きだったりするのよね~、あの子程しないけどね?
支度をして家を出てガレージに向かい車を出し十番高校に向かう。
到着して校門で待っていると見慣れた顔が2人歩いてくる。
「あっれぇ~彩都さん!どーしたの?」
おてんば娘のうさぎに見つかり話しかけられてしまった。
「私達を家まで送ってくれるんでしょ?」
じゃじゃ馬娘の美奈子がいけ図々しくも乗ろうとしてくる。
「黙りなさい!あんた達を待ってんじゃないのよ!亜美はどうしたの?」
ったく、どうしてこのおバカコンビと天才の亜美が同じ学校なの?頭痛いわ。
「亜美ちゃんなら先生に勉強の質問してたよ」
はぁ…あの子は本当にどんな時も勉強なのね?
私とのデートの事すっかり忘れてんじゃないでしょうね?
元々時間無いのに更に時間無くなるじゃない!
「長くなりそう?」
「さあ?何かあるの?」
絶対知ってるくせに美奈子が白々しく聞いてきてイライラするわ。
「亜美の誕生日だからデートよ!」
「亜美ちゃんの誕生日にデートか~彼氏に想われてて羨ましい~私も来月誕生日だけど、公斗何かしてくれるのかな?」
知らないわよ。直接本人に聞いてみなさいよ。
「大丈夫だよ美奈P!彼女の誕生日だもん、きっと考えてくれてるよ♪私もねぇ~まもちゃんと…」
おバカコンビのガールズトークが始まってしまった…。
衛とうさぎのラブラブ誕生日デートの話を散々聞かされウンザリしていると亜美が出てきた。
時刻はきっかり16時になっていた。
慌てた感じででてきたからきっと私との約束を思い出したんだろうと思う。
嫌味でも言ってやろうかと思ったけど、誕生日に免じて許してあげることにした。
うさぎと美奈子にまた明日とお互い挨拶しながら私の車の助手席に回って来て「遅くなってごめんなさい」と申し訳なさそうに言いながら車に入ってきた。
「いいのよ。行きたい所とかある?」
とりあえず私は色々考えてはいたけど、彼女の行きたい所があれば尊重しようと聞いてみた。
「えぇっとぉ…アクアリウムかハープが置いてある楽器店に」
ちゃんと行きたいところがあったみたい。
「了解!じゃあハープのお店に行ってみましょうか?」
「はい」
嬉しそうに返事が返ってきた。
新しいハープが欲しいのかしら?
彼女の技がハープを使用すると聞いているから何かあった時の為に磨きをかけておきたいのね?
今は平和だけど、戦士としてはいつでもプリンセスを守れるようにしておきたいんでしょうね。立派立派!
少し走るとハープ専門店に着いた。
中に入ると当たり前だけど色々なハープがあり驚く。
亜美を見ると目をキラキラさせて「うわぁ~」と感動して店内を見渡していた。
「何か気になる物とかある?そんなに高く無いものなら誕生日プレゼントとして買ってあげるわよ」
前もって色々プレゼントを見に行ったけど、結局どれも違う感じがしてしっくり来なかったし、前回のサプライズで失敗してる分本人と一緒に選ぶ方が楽しいだろうと思い買わなかった。
「いや、そんな…悪いし」
「遠慮はいらないわ!誕生日なんだから欲しいものねだりなさい」
もうちょっと甘えなさいよね!
私の言葉に後押しされる形で店内のハープを物色し始める亜美。
水を得た魚みたいに楽しそうに見て回る亜美を見られるのは新鮮だから私も結構、いや、大分楽しいわ。
お店の人に色々質問したりもして、試し弾きを勧められて弾いてみたりもしている。
真剣に選んでる姿を見て顔が綻ぶ。
「どう?決まりそう?」
即してる訳じゃないけど、また夢中になりすぎて色々忘れてハープ選びしている彼女に存在をアピールする。
「はい、これにしようと思います。どう…ですか?」
「いいんじゃない。亜美にピッタリよ」
値段もお手頃価格でバイト代で何とか買えそうで助かるし…。
お会計をして店を出るとハープを抱えながら嬉しそうにしている。
「ハープ、ありがとうございます」
とびきりの笑顔でお礼を言ってくる彼女を見て、このスタイルにして良かったと改めて思った。
「どういたしまして。気に入ったのが見つかって良かったわね」
「はい」
珍しく笑顔でハッキリと感情表現してきてキュンとする。
そんなやり取りをしながら店を出る。
ハープ専門店で割と時間を使ってしまい、とっくに17時を過ぎてしまっていた。
とりあえず軽く夕食をとることに。
私のお勧めのイタリアンのお店に行き、パスタとピザを注文する。
シャンパンを飲みたかったけど車だから亜美と同じジュースで乾杯。
「改めて、亜美、お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。ハープ、大切にします」
嬉しいこと言ってくれるじゃない!
このまま塾なんて行かせずに拐っちゃうわよ?なんて笑
食べ終わったら18時30分を過ぎていて、塾の時間が迫って来ていた。
塾まで送ってあげると、中々車から降りようとしない亜美を不思議に思っていると、恥ずかしそうにしながら顔を近づけてきた。
恥じらいながら、何と私の頬にキスしてきた。
普段奥手で色気とは無縁な彼女からの意外なお返しに驚いてしまった。
彼女を見ると、彼女も自分の行動に驚いているみたいで、慌ててお礼を言って車を出て塾に向かっていってしまった。
頬ではあるけど、まさか亜美からキスして来てくれるとは思わなかったけど、それだけ楽しかったって事よね。
亜美、お誕生日おめでとう。
また生まれ変わって、出会ってくれてありがとう。
END
2020.9.10