現世ゾイ亜美SSログ
『女子高生、怖い(ゾイ亜美)』
午後の二コマの長い講義に加え、ゼミまであった一日がやっと終えた彩都は、やれやれと思いながら大学を後にした。
今日は久しぶりに亜美と会う約束をしていたので、流行る気持ちを隠しもせず待ち合わせ場所の喫茶店に向かった。
目的の喫茶店の中に入るとウエイトレスに一人かと声をかけられる。それを否定しながら中をキョロキョロさせて目的の人物を探す。
すぐにその人物である綺麗な澄んだ青い肩まで伸ばした髪の毛の人物が座っているのが見えて、クスッと微笑んだ。
ゼミで少し遅くなると伝えていたからか、彼女は一人ではなく、茶髪をポニーテールで結んで、彼女の頭から一つ出るほど長身の女の子ーーー親友のまことも付属品として来ていた。さしずめこの子の彼氏であるオープンスケベの勇人は、バイトで暇な放課後を持て余し、付いて来たのだろう事が想像に固くない。
二人っきりでは無いのかとガッカリと勇人への怒りはありつつも、笑みを浮かべながら愛しい人の名前を呼ぼうと右手を上げながら座っている席へと接近して行った。
しかし、呼びかけようとしたその時、自分の耳に飛んでもない言葉が飛びこんで来て、固まり、激しく動揺してしまった。
「ケンタかしら?」
「ほんっと亜美ちゃん、好きだよなぁ〜」
二人で一体どんな会話をしていたのか?
お互いに彼氏持ちなのに、他の男の話?
恋愛話に花を咲かせているのか、男の固有名詞が出て来るとは、彼女にしてはガードが緩すぎる気がするのだが?
いや、あれか?アイドルグループで強いて言うなら誰かって奴だ。それなら分からなくもない。付き合いで無機質に選んでいるのなら、納得も出来る。
違う学校に通うレイだけは違うが、十番高校三馬鹿トリオは、無類の男好きにアイドル好き。オマケに恋愛脳の花畑と来たもんだ。彼女に悪影響を及ぼしていても不思議では無い。
勉強一筋、男嫌い(とは言ってなかったか?)両親が離婚していて母親と暮らしているから男慣れしておらず、恋愛に積極的になれない彼女から男の固有名詞が出るのは悪友の所為だ。
「亜美!ケンタって、だれ?」
兎に角、黙って考えていても仕方がない。彼女に限って浮気とかは無いと信じているからこそ、白黒ハッキリ付けてスッキリしておきたい。
割と自分でもびっくりするほどの行動力の速さと大きな声で話しかけて、心の中で(私は勇人か!?)と言うツッコミをする羽目になった。
そんな余裕を持たせつつ、アイドル談議の可能性も試算に入れ、テーブルの上にあると思しきそれらしい雑誌や円盤の類をチラ見する。
結果、それらは並べられておらず、ある意味ホッとしながらもガッカリしてしまう。まだアイドルでさめざめと付き合いで選んでいて欲しかった等と変な方向で納得させたかったのに。
何故、雑誌を広げていないんだ!?と心の中で理不尽なツッコミをするに至った。
「さ、彩都さん!?」
突然話しかけられた亜美自身も驚き、慌てた顔をした。
いや、私と待ち合わせしているのだから、いつかは来るのは予想出来たはずでしょ?
そんなに慌ててどうしたの?話している内容が内容だっただけに、動揺しているということなのと変に勘ぐってしまう。
「ねえ、ケンタって誰よ?」
亜美の隣に座ろうと近寄りながらもう一度聞き返す。私の行動に、彼女もソファー椅子の窓側へとズレる。
「え?」
私の質問に、その名に覚え無しと言う困惑した表情を浮べる。
いや、今しがたハッキリキッパリ口にしてましたけどね?
本当にこの子は、恋愛関係になると途端に知的レベルがダウンするのねと呆れ返った。
「さっきまことと男の話、してたでしょ?」
質問をすると、まことと顔を合わせて互いに目をぱちくりとしている。これが所謂修羅場な場面でなければ、その行動すらも可愛いと思っていたことだろう。
でも、今は生憎の修羅場。そんな雰囲気になれない。白黒ハッキリつけるまでは。
「ああ、ケンタの事か?」
亜美より先に答えたのは、事の発端であろう彼女の親友ーーーまことだった。
普段はアホを発揮しているが、こういう恋愛の場面では知的レベルが彼女よりも優れていて助かる。
「ああ、ケンタか!」
まことの言葉に弾けたように、何かを思い出して彼女の顔が明るくなる。
「ふふっ」
「アハハハ」
私を置いて二人で笑っている。怖い。何で笑ってるの?笑うところなの?
寧ろこの場面は私に詰め寄られて焦る局面よね?
「えっとね、ケンタってのはケンタッキーの事なの」
「え?は?……ええ?」
ケン……ええ?
ケンタって、そっちの?
そっちのケンタなの?
いや、紛らわしいわ!
「ケンタってケンタッキーの事?随分と紛らわしい言い方してるじゃない!」
いや、女子高生怖いわ。
何でもかんでも略して来るし。
その言い方だと本当にどこぞの男だと思うじゃないの。
「ごめん、彩都!どこのファーストフードが好きかって話だったんだ」
「……そーゆーとこか」
アイドルグループでも無く、同級生の男でもなかったのは本当に正直かなりホッとした。
けど、私以外の男の固有名詞みたいな言い方を外で話さないで欲しいと思った。
おわり
20240529