Rainy Melody


駐車場に着いたその時だった。
稲光がしたと思ったらバリバリと言う大きな音がした。

「きゃっ」

驚いて悲鳴を上げ、気づけば隣にいた彩都さんに抱きついていた。
いきなり抱きつく形になってしまったから彼の反応が怖くて顔が見れず離れようとした。

「ご、ごめんなさい!」

謝りながら離れようとすると、傘を持っていない方の手で抱きしめ返され、離れる事を許してはくれなかった。

「大丈夫?治まるまでこのままで良いからね」

小刻みに震えている事が伝わったのか、優しい言葉が返ってくる。
近かったのか稲光と音がほぼ同時だったから心の準備が出来ずにいた。
雷なんてまこちゃんの技で慣れているし、まこちゃんだと思えばいいのに、それとこれとは別だったみたい。
まこちゃんは私たち味方には危害を加えないし、例え当たりそうでも手加減してくれる。
でも、実際の雷は容赦ない。とても怖い。
そう、私は雷が苦手だった。今も嫌いだ。
それを知ってか優しく包み込んでくれる彼に甘えてもう少しこのままでいさせてもらおうと素直に受け入れた。
もしかすると1回だけじゃなく何回も来るかもしれないから……。

ピカッ……ゴロゴロ、バリバリ

空気なんて読まなくてもいいのに、私の予想は的中して激しく雷が鳴り響く。とても怖い。
鞄を持っていない手を彼の服を思いっきり掴んで震える。
怖くて顔を彼の体に埋めながらさっきよりも震えが激しくなる。涙も出てきて泣いてしまった。彼の服を濡らしてしまって申し訳ないと思いながらも離れられなくて、止まらない涙で濡らし続けてしまった。
その間も何も言わず優しく抱きしめてくれて、とても安心した。

「ご、ごめん……なさい。あ、ありがとう、ございました」

暫くして漸く雷が落ち着き、恐怖が収まった私は顔を上げると謝罪と感謝を彼に言うと彼はニコリと笑っていた。

「怖いのは収まった?」
「……はい、お陰様で」

私の顔から滴り落ちる涙を拭ってくれたかと思うと彼の顔が近づいてきた。
顔を少し傾け、目も少しずつ閉じられて行く。
それが何を意味するかくらいは恋愛経験の無い私にだって分かる。ーーキスだ。
今まで先に行く事が怖くて一歩踏み出せないでいた。けれど、今日は行けそうな気がして受け入れる事にした。
目を閉じて待っていると唇に彼の唇が当たる感触が伝わって来た。暖かく柔らかくて優しいキスだった。
密着している身体を伝って心臓が激しくドキドキするのが伝わるのではないかと恥ずかしくなるくらい、うるさく暴れる心臓が鬱陶しい。

漸く離され、自由になった口で必死に酸素を吸収する。酸欠とボーッとした頭で苦しくなって何も考えられなかった。
恥ずかしさで彼の顔を見れずにその場に立ち尽くす。

「車に乗って、適当な所に食べに行きましょうか?」
「……はい」

察してくれたのかどうかは分からないけど、会話や顔を合わせることなく彼は車に向かって歩き出した。その後ろを必死でついて行く形になる。

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