現世ゾイ亜美SSログ


『Wonderful Christmas』


「うう、やっぱりヨーロッパは寒いわねぇ」

クリスマス当日、私はドイツに来ていた。
凍てつく寒さに思わず身震いする。
何故私がドイツに来たかと言うと、それは簡単な話。留学中の彼女ーー亜美が、冬季休暇も帰らない事を早々に決め込んだから。
そんな事だろうと彼女の行動を先読みしていた私は、クリスマス着の便を早々に予約した。
どうせクリスマスに行くのだからと、亜美にお願いして互いの共通の趣味の一つであるクラシックコンサートを本場で見たいと懇願し、チケットを取ってもらったのだ。

「彩都さん!」
「亜美!」

予め伝えておいたら亜美が空港まで迎えに来てくれていた。
帰らないと決めていた勉強一筋な彼女。私の事なんて二の次だと思っていたけれど、案外と会いたかったのかも。なんて思ったら、亜美も可愛いところがあるじゃないなんて思う。

「迎えに来てくれるとは思わなかったわ」
「見送ってくれたから」

亜美の留学への旅立ちの日、私は空港まで送ってあげた。ただのお返しってこと?
オトメゴコロ、ドコ?

「それだけ?」
「そ、それだけ、です!」
「ふふ、顔真っ赤よ?」
「か、からかわないで!」

ただのお返しにムッとした私は、久々に会ったと言うのについからかってしまう。
すると茹でダコみたいにみるみる真っ赤になる亜美。可愛いわね。

「これでゆっくりクリスマスデートが出来るわね。でしょ?」

ウインクをしながら亜美の心の中をくみ取ったかのように私は呟く。勿論、これは私の本音でもある。
ヨーロッパでクリスマスデートだなんて、なんて素敵なの。私たちにしか出来ないデートよ!
うさぎ達は日本で何の変哲もないクリスマスデートなのよ。可哀想に。

「あの、彩都さんと行きたいところがありまして」

私のウインクをものともせず亜美は、デートプランを語り始める。
美術館に行って、チェスの専門店、それからピアノがある所に行きたいと饒舌に語り出す。

「ちょっと待って、盛り沢山じゃない!それ、今日中に出来るの?コンサートは何時から?」
「コンサートは18時からですけど、何日か滞在するんでしょ?」
「何当然、数日間いる前提なのよ?」
「あら、遠くまで来ておいて、トンボ帰りなんてしないでしょ?」
「そうよ!三賀日までいますぅ~!」

久々のヨーロッパに、久々の亜美。すぐに帰るわけないでしょ?
あとは時差ね。七時間違っても時差ボケはするし、トンボ帰りなんてとんでもない。
お金は嵩むけれど、それよりも亜美やヨーロッパを満喫したかった。それを見透かされているのは何か気分が良くないわね。

「じゃあ、ゆっくり遊べますね」
「遊ぶの?日本ではアレだけ参考書持ち歩いては勉強三昧の人だったのに?」
「正直、勉強しないのは怖いです。だけど、一度きりの青春。楽しむ時は楽しまないとと思って」
「あら、意外」

青春を勉強に捧げて来た人の発言にしてはマトモな言葉に、人は変われば変わるんだと驚く。

「じゃあ取り敢えず美術館でも行く?」

現地の時計を見るともう午後二時。昼食は機内で済ませているから、後四時間ある。有効に使わなければ。
それにせっかく亜美がデートプランを考えてくれているのだから、乗っからないと。

「ええ」
「混んでるかしら?」
「さあ?」

亜美が絵画が好きなのは父の影響が大きいのだろう。絵画を鑑賞する事で、画家の父親を見ているのかもしれない。
日本にいる時から彼女は美術館を好んだ。画家の父親を理解しようとしていたのだろうか。頭のいい彼女はきっと、これも勉強の一貫に捉えていそうだ。
真剣な眼差しで有名な絵画を見る亜美を見て、私は漠然とそんな事を考えていた。勿論、絵画もそれなりに楽しんでいるわよ?

「軽く夕飯でも食べておく?それとも終わってからゆっくり食べる?」

現地時間に合わせた時計を見ると四時半を過ぎたところだった。

「少し食べておきましょう」

そう言う彼女に着いて地元のファーストフード店に入り、軽くお腹を満たす。と言っても、日本と違い量がバグっているので結構お腹いっぱいになった。
クラシックコンサート、寝たらどうしよう。時差ボケに加えてお腹いっぱいなんて寝るフラグじゃない。

「ご馳走様。じゃあそろそろ会場のベルリン・フィルハーモニーに向かいましょうか?」
「ええ」

時計を見ると五時半になろうかと言うところ。結構いい時間になってしまった。
美術館もファーストフード店もコンサート会場の近くを選んでいたのは正解だった。

「しっかし、こんな一流の会場で、一流のオーケストラのチケット、よく取れたわね。何者なのよ、あんた」
「うふふ」

クリスマスのこの時期は、そこかしこでクラシックコンサートがある。
しかし、一流の会場で一流のオーケストラのチケットはその中でも倍率は高く、手に入りにくい。余り詳しくない人でも分かる方程式だ。

「さ、座りましょう」

開場していたので、チケットの席へと向かった私たちは、席に座った。
程なくしてコンサートは始まり、クラシックを堪能する事にした。
しかし、四曲目の冒頭で驚く事になった。

「あれは、海王みちる!?」
「うふふ」
「あなた、知っていたの?」

そう、あの海王みちるが現れたのだ。
なるほど、それでチケットが易々と手に入ったのね。
出演者を調べてなくて、亜美に任せていただけだから文句は言えないけど、海王みちるが出るなら出るで事前に言っておいてくれないとビックリするじゃない!
現にビックリしたわよ!
全く、人が悪いわね。
だからあの時、変な笑いをしていたんだわ。やっと合点がいったわ。

「素敵なコンサートだったわ」

コンサートが終わり、私は感嘆の溜息を漏らした。
コンサートは、クリスマスに相応しく定番のクリスマス・ソングで構成されていた。そこに年末に相応しく、第九もあって盛り沢山だった。

「本当、本場のオーケストラは迫力が違いますね」
「そんな一人と繋がってる亜美もとんでもないわ。前もって言っておいてよ」
「ごめんなさい。サプライズです」
「こんなサプライズはいらないわよ。挨拶に行かなくて、大丈夫?」
「ええ、昨日たっぷりお礼は言っておいたので」
「私もお礼、言いたいわ」
「じゃあ、後日設けますね」

明日もまだコンサートがあるから落ち着かないと思うのでと亜美は私にも海王みちるにも気を使ってくれた。

「じゃあこれからどうする?イルミネーションデートでもする?」
「うふ、そうですね」

その後私たちは、コンサートの余韻に浸りながらイルミネーションデートを堪能した。
ロマンティックな景色の中、亜美もリミッターが外れたのか自然な流れで口付けを交わすことに成功した。
宿など取っていなかった私は、そのまま亜美の宿泊先に行き、キスの延長戦で恋人の甘い時間を過ごすことが出来た。

「メリークリスマス、亜美」

腕の中で疲れ果てて眠る恋人の頬っぺとオデコにキスをして幸せの中、眠りについた。




おわり

20231224 クリスマスイヴ

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