音符に想いを乗せて


9月も3分の1をすぎたこの日、彩都は亜美と久しぶりのデートをしていた。
場所は亜美のリクエストで都内にある期間限定のアクアリウム。会期の期限が今日までと言うギリギリの来館となった。
9月と言えどまだまだ暑く、照りつける太陽に汗ばむ日が続く。彩都も涼しいことろならと思い、亜美をここに連れてくる事になった。

「本当に好きねぇ~」

夢中になって魚を見ている亜美に声をかける。

「ええ、落ち着くのよ」
「そう、気晴らしになったなら良かったわ」

大学生になり一年目の亜美は、目指していた医学の勉強を本格的に始めていた。慣れない日々の中、講義について行くのもやっとで夏休みに入ってからも引きこもって勉学に勤しんでいた。
頭が良い亜美でもやはり医学は中々難しく、高校までと比べても参考書の量と勉強に費やす時間は圧倒的に増えていた。
彩都も彩都でそうなるだろうと予想し、薬学部の勉強とバイトで亜美の勉強の邪魔をしないよう程よい距離感を保ち応援する事にした。かれこれ1ヶ月以上会っていなかった。

しかし、9月10日は亜美の誕生日だ。この日だけは何としても会いたいと思い、前々からスケジュールを共に抑えていて、1ヶ月以上振りの再会だった。
どうせここ1ヶ月はほぼ外に出ず引きこもって勉学に励んでいたのだろうからとどこに行きたいか聞くとこのアクアリウムだったのだ。
そんな理由で会期ギリギリの今日になってしまった。

「家にも魚がいるのに?」

亜美の家に何度も訪れている彩都は、家でも魚を何種類も飼育しているのを知っていた。亜美の家自体もアクアリウム展が開けるのではないかと思う程に。

「あら、それとこれとは別よ。飼える種類と飼えない種類があるし、飼育が大変な種類もあるから」

色々飼いたいけれど勉強も忙しいし面倒見れなくなってしまうと無責任に飼えないと亜美は嘆く。

「じゃあ今日は見るだけ?」
「ええ、見るだけでも癒されるもの」

魚に目を離さず嬉しそうな笑顔で答える。
喜んでいるなら嬉しいが、せっかく1ヶ月以上振りのデートなのに彼氏である自分には目もくれず、魚に視線を送る彼女に彩都は少し寂しくなる。

アクアリウムに来てかれこれ3時間が経とうとしていた。
文字通り、時間を忘れて没頭する彼女を微笑ましく見ていたが、予約しているフレンチの時間が差し迫っていた。
いい顔で好きな魚を見る亜美も見ていたいが時間が迫っている為、移動することにした。

「亜美、そろそろ夕食の予約時間が来るから行きましょう」
「あ、もうそんな時間?やだ!没頭してしまっていたわ」
「良いわよ。そういう性格だって知っているから。それに閉館の時間も迫っているみたいだし」

名残惜しいが、時間が許す限り堪能したので出る事にした。

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