無茶振り彼女の頼み事


そして、そこからは亜美の幼い話へと変わり、色々思い出話を聞かせてくれた。

「小さい頃の亜美は……」

亜美のパパに応戦する様に、私は最近の彼女の様子を語って聞かせた。
その間、亜美は照れまくっていて、穴があったら入りたい状況に陥ってるみたいだった。

「最近の亜美さんはですね……」

亜美パパは、母親とは違う目線で話す私に興味深く聞いてくれた。
お互い、知らない亜美を聞くのは新鮮で話は尽きず、本人を置いてけぼりにして話に夢中になっていた。
父親と彼氏が意気投合している姿を見て、彼女はどう感じているだろうか?きっと、不思議な感覚で見ているだろうなと客観的に思っていた。
父親は、堅苦しいと言うより饒舌で気さくで話しやすいと言った印象を持った。
亜美パパは私の事をどう思ったかは分からないけど……。

「もうそろそろお開きとしようか?」

そう言って、手紙でも言っていた展覧会のチケットを数枚渡された。

「友達が多いと聞いていたから、これで足りればいいが……」
「20枚も入ってるじゃない!大丈夫なの?」
「ああ、みんなで来てくれ。それと、勿論彩都くんとデート感覚で来てくれると嬉しいよ」
「もう、パパったら!」
「是非、行かせてもらいます!」

単純に亜美パパの絵が気になった。それと、家だと兎に角勉強ばかりだから、外にデートに連れ出せる口実は、実に有難い。
……うさぎや美奈子たちも来るかも知れないけど、会わないようにしたいわね。後、海王みちる。絵画が趣味だったから、きっとはるかと来るわね。

「みんなに渡しておくわ」
「期間中は父さんも常時いるから、いつでも会いに来てくれ」
「喜んで。ところで、“会わせたい人”は?」

お開きで解散寸前に、メインイベントのその人がまだ現れていない。亜美が聞き出せない事を、聞いてやった。
横目でチラッと亜美を見ると、ドキリッとして体を強ばらせているのが見て取れた。

「車で迎えに来てくれているよ。お酒を飲んだからね。駐車場で待ってくれているみたいだから、着いてきてくれ」

そう言うと、亜美パパは駐車場に向かって歩き始めた。
後を追って歩こうとすると、亜美に服の袖を握られた。こっちまで緊張が伝わるわ。

「紹介するよ。今度、私のパートナーとして会社を一緒に立ち上げることになった秘書の村瀬二郎くんだ。絵の鑑定師として活躍している」

紹介されたのは男の人だった。しかも、亜美の結婚相手でもなければ、父親の結婚相手でもない。

「会社を立ち上げるの?」
「あれ?聞いてないか?」

その場にいた全員が“?”であった。
父親曰く、母親に相談していたそうで、自然と伝わっているものと思っていたらしい。
憶測でしかないけど、亜美には心配かけたくなかったのと、勉強で忙しくしていたこと。後は、父親の事を話したくなかったから、亜美には伝わってなかったのだと理解した。

「こっちに戻ってきたのも……?」
「ああ、物件探しとか手続きとか色々、な」

驚きと共に、心底安堵した表情を浮かべる亜美。
私も、違うことで心配していたからホッとしたわ。

「じゃあ、元気でな!あ、展覧会、絶対2人で来るように」

そう捨て台詞を吐いて、さっさと車に乗り込んで言ってしまった。
なんだか、騒がしくて慌ただしい人だと母親とは合わず、離婚に至った経緯を垣間見た気がした。

「良かったわね、再婚相手とかじゃなくて」

その言葉にホッとしたのか、抱き締めてきた。
私は、頭を撫でながら答えてあげた。

「父親に私の事、何て話したのよ?」
「“素敵な人が出来たから、紹介したい”って」

抱き締めた体はそのままに、上目遣いでそう答える亜美。普段中々見られない彼女の行動に、キュンとなる。
全く、人の気も知らないで!
襲ってやろうかしら?

「襲うわよ?」
「……良い、よ?」
「本当に襲うぞ?」

コクリッと頷く、あざと可愛い彼女。
この後、どうしたかは想像に任せるとしよう。




おわり

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