無茶振り彼女の頼み事


そして、父親と会う事になっている日がやってきた。
会うのは夕方の会食だから、それまでは亜美とデート。
なのだけど、夕方の事を思っているからか、亜美も私も口数が少ない。そして、空気が何処と無く重い。

「亜美!」
「はい!」
「せっかくの私が選んであげたおニューの服を纏っているのに、表情暗い!後、空気重い!」
「な、さ、彩都さんこそ。人の事言えないくらい緊張してるじゃ無い!かっこいい服が泣いてるわよ」

時間が経つにつれ、重くなって行く空気に耐えきれなくなった私は、痺れを切らして叱咤する。
すると、まさかの反撃が返ってきて軽く喧嘩に発展してしまう。今まで言い争う事なんて無かったのに、何故このタイミング……。

「亜美が言い返して来るなんてね。それだけ異常な空気だったみたいね」
「ガチガチでしたね。でも、おかげで緊張が溶けたわ」
「私もよ、さ!行くわよ」
「はい」

いざ、戦場へ。
いや、父親と会うと言うだけの事。
けれど、私にとって、恐らく亜美にとっても、敵と戦うよりある意味怖い場所へと向かう。

約束の店へと入ると、既に父親らしき人が座っていた。
テーブルを見渡すが、“会わせたい人”はまだの様で、見当たらない。遅刻か?と訝しげに思っていた。

「パパ」

亜美の呼び掛けに、父親が席を立つ。
180cm近くありそうな長身で、どこか公斗っぽさがあるけど取っ付きやすそう。そんな第一印象を受けた。

「亜美。大きくなって……髪も伸びたな」
「うん」

久しぶりの親子水入らずの会話。照れてる亜美を微笑ましく見ながら、水を刺さぬよう見守っていた。

「そちらの方は?」

黙りを決め込んでいた私と、何も言わない亜美。傍で見守っていたから当然気づかれると思ったけど、早い段階でそれはやって来た。

「パパ、こちらは彩都さん。私の……」
「どうも、異園彩都と申します。亜美さんと御付き合いさせて頂いております」

言い淀む亜美から言葉を受け取り、一気に自己紹介に彼氏だと伝える。
さぁ、亜美パパの反応は?

「じゃあ、君が……?」

ガリ勉亜美に彼氏が出来たと驚くかと思いきや、父親の反応に私の方が驚いてしまった。
亜美、私の事、何か話したのね?と声に出さず表情で伝える為、チラッと顔を見た。

「ええ、そうなの」

気まづそうになりながらも答える亜美。
一体何が、そうなのか?

「“会わせたい人がいる”と言っていてね。連れてくるよって言ってくれたから、楽しみにしていたんだ」

亜美も“会わせたい人がいる”攻撃してたのね。似た者親子かしら?

「そうだったのですか……。そちらも“会わせたい人がいる”とか?」

マウントを取ったところで、もう1つとらリ事にして出方を待つことにした。

「ああ、時間をずらして言ってあるから、もうすぐ来ると思うよ。それより、立ち話もなんだ。座ろうか?」
「ありがとうございます」

父親が座らない限り座れない雰囲気だったから、立ち話が続いていた。
勧められて私と亜美は隣同士に座る事にした。

「適当に料理はお勧めのコースを頼んだが、飲み物が分からなくてね?彩都くん、だったかな?」
「はい」
「君、お酒は呑めるのかい?」
「はい、一応成人してますので一通りは」
「じゃあ、ワインなんかも?」
「一番、好きです」
「そうか、じゃあ」

そう言って亜美パパは上機嫌にワインを注文してくれた。
このやり取りを亜美はどこか嬉しそうに見ていた。

「いやぁ、それにしてもまさか亜美にこんな美形な彼氏が出来るとはな」
「パパ!」
「勉強ばかりしてると母親から聞かされていたから、心配していたんだよ」

私もまさか、父親と母親が連絡取ってるとは思いもしてなかったわよ。しかも、母親よりも前に父親に会うことすら想像出来てなかったし。

「3人で暮らしていた時も、勉強ばかりだったからなぁ……」
「今も勉強ばかりですが、将来の夢のために努力を惜しまない姿は素敵です」
「そうか、そんなに言って貰えて、娘もさぞ嬉しいだろうな」
「パパも彩都さんも、止めて!恥ずかしい……///」

2人の男の話題の中心となった彼女は、照れまくっていた。
一段落したタイミングで、ウエイターがワインと料理を持って来た。

「乾杯しようか?」
「はい、喜んで」

グラスとグラスを合わせて乾杯する。

「しかし、こうして娘の彼氏と酒が飲み交わせる日が来るなんてなぁ……」

食事を進めながら、ワインを飲み進める亜美パパ。しみじみと言ってくる。
私の事を認めてくれたという事かしら?

「これからも御付き合い、させて頂きますよ。彼女とは、将来の事をしっかり考えているので」
「素晴らしい!亜美を頼む」

私の堂々とした結婚宣言に、父親は快諾してくれたようだった。

「実際、私はこの通りこの子の母親とは離婚して一緒にいてやれない。更には絵描きでフラフラ日本中歩き回っている。傍にいてやれない事が、父親として情けなくてね……」

父親として、役目を果たせなかった悔しさを吐露する父親の目からは光る物が見えた。
酒も入っているからだろう。饒舌な上に泣き上戸と来たもんだ。歳はとりたくない。
しかし、頼られている。認められているのは、単純に嬉しかった。

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