現世ゾイ亜美SSログ


遂にこの日がやって来た。亜美が留学する日になった。
仲間との別れを前日に済ませた亜美は、彩都と一緒に空港へと来ていた。

「ありがとう」

空港へは彩都の車で送って貰い、荷物も持ってもらっていた。そのことに対して律儀にお礼の言葉を述べたのだ。

「いいのよ。当然の事だもの」

それに、少しでも一緒にいたいと思ったから。と彩都は続けて言葉を発する。

「ごめんなさい……」

留学する事に後ろめたさがあるのか、亜美は謝ってきた。
彩都と付き合う前から医者を目指していた亜美にとって、留学は必須。亜美自身も望んでいたことだった。
その為、何の戸惑いも相談も無く一人で決めて、行く準備をしていた。
彩都にだけでは無い。仲間にも相談せずに行く段取りを組んでいた。そうしなければ、今の亜美にとっては簡単に留学する決意が出来ないと思ったから。

うさぎ達と出会って6年。苦楽を共にしてきて、辛い時も悲しい時も楽しい時も分かち合ってきた。前世など関係ない程に大切な人達で、これからも一緒に泣いたり笑ったりしたい。同士と言うよりも親友。固い絆で結ばれていた。

彩都も、亜美の事を大切にしてくれる。気持ちを尊重して大事にしてくれる。居心地も良いし、話していても飽きない。

きっとうさぎ達も彩都も、留学する事を話したら快く送り出してくれるだろう。
それを分かっていたからこそ、辛くて言い出しにくかった。

「貴女の夢ですもの。私たちの事は気にせず、立派な医者になる為に頑張ってらっしゃい」
「……はい」

優しい言葉をかけられ胸いっぱいになり、亜美は言葉に詰まる。涙が出そうになるのを堪える。
泣くのは柄じゃないし、自分では無い。置いていかれる方が悲しいのだ。

「まことも、来られたら良かったんだけどね……」

そんな亜美を見て、一番見送って欲しかっただろう人の名前を出す。

「まこは、飛行機が無理だから……」
「両親を飛行機事故で亡くしてから怖がっているのよね」

まことの飛行機嫌いは、飛んでいる音だけでも拒絶反応を示す程。
例えテレビの中でも怖がる程の筋金入り。空港なんて以ての外だった。

「これじゃあ、会いにも行けないなんて気の毒ね」
「仕方ないわ。昨日も無事に行って、無事に帰って来てって、泣かれちゃった」
「そう……」
「火川神社の交通安全のお守り、こんなにくれたのよ」

両親を飛行機事故で亡くしたまことにとって、今度は親友が飛行機を乗ろうとしていることに不安が大きいのだろう。
渡されたと言うお守りを見た彩都は、尋常では無い数で驚きを隠せ無かった。

「どれだけ不安なのよ、あの子は!一体、何個あるの……」
「ざっと100個ありました」

亜美も苦笑いをしながら答える。

「100個!?怖いわ……」
「レイ曰く、在庫全部買っていったって頭抱えていたわ。後、御百度参りまでしてくれていたって」
「マジか!?バイト代、全部注ぎ込む勢いね。でも、有難いわね!心配してくれる親友がいるってことは」
「ええ」

まことの思いを受け取った亜美は、絶対無事に行って、帰ろうと心に誓った。

「私からも、餞別よ!」

愛重めのまことの贈り物に負けじと彩都もプレゼントを用意していた。

「ありがとう。って重い……」
「当然でしょう!私の愛が詰まっているんですもの」
「うふふっ開けても、いいかしら?」
「どうぞ」

彩都からのプレゼントを開けると、分厚い本が入っていた。

「これって……」
「どうせ勉強ばかりするんでしょ?医学書関係はいっぱい持っているでしょうから、私からは薬辞典よ。役に立つと思うから、飛行機の暇時間にでも読んでみると良いわ」
「ええ、そうさせてもらうわ」

彩都からは分厚い辞典だった。薬学部に通う彩都からの辞典に亜美は、安心して読む事が出来ると喜んだ。

「じゃあ、そろそろ時間だから……」
「ええ、行ってらっしゃい!身体に気をつけてね。勉強は程々に」
「彩都さんも、お元気で。手紙、書きますね」
「楽しみにしているわ。私も手紙、書くから蕁麻疹早く治しなさいよ!」

そっちの勉強もして来なさいと彩都は見送った。

彩都に見送られながらゲートに入ってドイツに向かった亜美から無事に着いたと報告が来たのは、それから15時間後の事だった。




おわり

20230408 出発の日&参考書の日

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