宿題と花火



「でもでも、絵日記と自由研究は終わったよ!」
「何ですって!?」

優等生四人が後回しにして、出来ればやりたくない夏休みの宿題にアホっ子二人は率先して頑張ってやり遂げたと聞き、この差は何だと唖然となった。

「自由研究は何したの?」

ほたるは恐る恐る二人に聞いた。

「漫画を描いたの!」
「宝石辞典を作ってみた〜」

るるなは夏休みに漫画を読み耽った結果、描けるのではないかと自惚れ、その勢いで薄い本を自家製で作った。
本を作る姿を見て楽しそうだと感じたなるるは、宝石店の娘である事を活かして母や姉に手伝って貰いながら割と本格的な宝石辞典を作り上げる事ができた。
奇しくもそのお陰でなるるは母親の仕事の魅力や楽しさを知り、漠然と関連の仕事につきたいとの思いが芽生えたのはまだ誰にも言えない密かな夢となった。

「ほたるん達はぁ?」

自由研究に関して秀でて優位に立ったと感じたなるるは優等生四人に聞き返した。形勢逆転を狙う算段だ。

「私はバイオリンで作曲♫」
「流石ほたるちゃん、おっしゃれ~」

小さい頃からみちるに教わり、それなりに特技となったバイオリン。みちるに手伝って貰いながら簡単な曲を一曲、作曲していた。
そのことを話すと空野が顔色を変え、目を輝かせて羨ましがった。

「ほたるさん、ズルいです! 僕もみちるさんにバイオリン教わりたい!」
「……それとなく聞いておくよ」

ややズレているが、その手段があったかと目をキラキラさせて羨ましがる空野の勢いにほたるは押されて負けた。

「そうか、予習を兼ねてバイオリンについて研究するってのも良さそうですね」

まだ何をするか決まっていなかった空野がうわ言のように呟いた。

「俺もこの機会に蕎麦についての研究でもすっかな〜」

そう言えば姉貴が小学生だった頃の自由研究はオカルト関係だったなとふと九助は思い出した。それが中学高校で役に立つとはと考えていた。
そこで蕎麦についての研究にならなかったのが何とも姉貴らしいと九助は皮肉った。

「じゃあ私は中華料理の新メニューでも考えてみようかな……」

ここまで来るとなるるに習って家業と向き合ってみるのも有りかと各々思い始めた。
結局は継ぐことになるのなら遅かれ早かれ向き合わなくてはならないのだ。損はないだろう。寧ろ先生にも褒められるし、知識もつくしで良いことしかない。
若干一名は方向性がおかしいが。

「読書感想文はまぁ置いておくとしてもさ、ほぼ終わったんだし上出来じゃね?」

元々勉強嫌いなアホっ子コンビの為に催した週一回の勉強会。みんなで同じ志で頑張った事により、なるるとるるなも捗ったようだった。
勉強会をしようと提案した甲斐があったと手応えをみな感じていた。

「そりゃあもう、頑張ったら花火しようってほたるんの提案があったんだもん!必死だよ」
「花火のために頑張ったようなもんだしね!」

ほぼ宿題が終わり、最終日に慌てて修羅場を迎える事を回避出来たコギャルコンビは意気揚々と花火をしながら喜んだ。
そう、この二人が頑張っていたのは今日のこの花火のご褒美のためであり、決して最終日の修羅場回避のためなんかでは無いのだ。
この二人が大人しく勉強なんかするはずが無く、どうしたもんかと知恵を絞ったほたるの提案で、早く終われば花火でお疲れ会をする事となった。
ほたる自身も苦戦を強いられる絵日記。毎日そうそうネタなどあるはずも無く。プールで会えるが、それだけでは寂しい。遊びたい。それを全て叶えられるのは勉強会という訳だった。
いくら勉強が得意と言ってもずっと家にいるのもつまらない。夏の思い出も作りたい。夏と言えば花火だとほたるの中で繋がったのだ。

「やっぱり結局、花火なんだね〜」

桃も花火をしながら笑顔で呟いた。
仕方がない。なるるやるるなだけでは無く桃たちも子供だ。夏らしい事をして遊びたいのだ。

「イエーイ」

しっとりと花火をする女子四人に対し、九助は持った花火をぐるぐる動かしてふざけている。

「九助くん、危ないですよ!」
「いいじゃねぇかよ。何もないところでやってんだから」

ふざけ始めた九助を空野が注意するも、聞く耳を持たない。

「私たちに向けないでよね!」
「やっぱり九助は九助か……」

勉強をしていた時の姿は真剣で、コギャル相手にも物怖じもせず(同級生だから当然だが)分からない所を同じ目線で教えていた九助。
一転、遊び出すと途端に普段のお調子者が顔を出し、ふざけてしまう。
その落差に、桃もほたるも呆れる。見直した直後にこれだ。残念極まりない。

「でも、楽しい想い出が作れたね」
「絵日記も色々書けそうで、こっちも助かったよね」
「勉強会が無いと店のお手伝い絵日記になっちゃうところだった」

去年までは正にそんな感じだったと桃は苦笑いする。
中華料理屋の桃は冷やし中華を始め、夏はかきいれ時で忙しい。必然的に手伝い、看板娘をしていた。

「そんな時にお邪魔しちゃってごめんね」
「ううん。勉強するタイミング無くなるから私も助かったの。九助もだと思うよ」

九助の実家は蕎麦屋。こちらも夏はざる蕎麦を提供するため忙しい。
それなのに、だから丁度いいと言う理由から桃と九助の家で朝から夜までみっちり勉強会をする事になったのだ。迷惑この上ない。
九助の家には姉がいて、手伝っている。

「冷やし中華もざる蕎麦も、ご馳走様でした。とっても美味しかったよ」
「おう、又いつでも来いよ」
「今度は家族で来んね!」
「僕も姉とその友達(美奈子)も連れて来ます」
「あたしも〜」

頑張って勉強をしている姿を見ていたそれぞれの家族が出し合って買ってくれた手持ち花火。それもそろそろ終わりが近づき、定番とも言える線香花火だけとなった。
夏休みを振り返り、六人は線香花火を手に取った。

「よし、誰が最後まで残るか競走だ!」
「負けないからね!」
「望むところです!」
「私も負けないよ!」
「私だって!」
「私も!」

こうして線香花火の勝負と共に六人の勉強会は幕を閉じた。




おわり

20240810


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