宿題と花火
「あぁ〜〜〜花火、ちょ〜MM(マジ目の保養)」
「心が洗われるよぉ〜〜〜」
泣く勢いで手持ち花火に感動しているのはなるるとるるなの二人。
「現金な奴らだな」
「全くですよ」
その様子を呆れ返った様に言うのは九助と空野。
「仕方ないよ。さっきまでずっと勉強頑張ってたんだし」
「そうそう、大目に見てあげようよ」
呆れる男子二人を宥めているのは桃とほたる。
「お前らは二人に甘すぎなんだよ!」
桃とほたるのなるるとるるなへの対応に不満を覚えた九助は食ってかかる。
そうでなくてもなるるとるるなは自分に甘い。そこに加えて桃とほたるが甘やかすから余計甘えてしまう。それを懸念した九助は、不満をぶち撒ける。
「コイツらのためにこうして夏休みに毎週集まってんだろ?」
「そうだけど……」
夏休み。それは学生にとっては一番長い休み。
それ故に兎に角これでもか! と言う程宿題を出され、休みもサボらない様にと学校から鬼のように出されるのが宿題と言う生徒にとっては有り難くない贈り物。
学生の本分は勉強とは言え、容赦無い量の、休ませる気あるのか? 無いだろう? と疑いたくなる宿題を前に、夏休みに入る前に意気消沈する生徒は少なくない。
なるるとるるなも例に漏れずで。放置していたら夏休みの殆どを何もせず遊び呆けるのが長い付き合いで容易に想像出来てしまい、このままでは夏休み最終日の昼に漸く慌ててやり始めるも時既に遅しで間に合わず、翌日の登校で結局何も提出出来ず先生に怒られる未来が見えてしまう。
クラスメートの前で先生に怒られ、項垂れて暗くなる姿など見たくはないものだ。
ならばと考え、夏休み前になるるとるるなの悲惨な未来を回避するべく桃とほたるで対策を立てようと立ち上がった。それが、週一での勉強会。
プールがある日や土日は商売を手伝う九助と桃が戦力外になってしまうので避けて、平日に宿題をする為に集まる事になった。
なるるとるるなの二人には、遊ばないの? と不満を漏らされたが、誰のためにやると思っているんだ説得した。
「手伝ってあげてたじゃん!」
「……それは、あいつ等が分かんねーっつってたから」
「優しーんだよねぇー」
文句を言っていたわりに集中して勉強に取り掛かり、分からない所はきちんと分からないと意思表示をしながら頑張る二人がそこにいて。
姉がいるが、何かと面倒見が良い性格に育った長男の九助と空野の二人は、なるるとるるなをそれぞれ見てあげていた。
その様子を見ていた桃とほたるは、微笑ましくなった。
「面倒見が良い長男の力、発揮だね」
「お陰で順調みたいだよ」
何だかんだ言っていた九助と空野の男子二人のアホっ子コギャル二人に対する優しさに、桃とほたるは。
「それは良かったです」
ほたるの一言に、空野はホッとした表情を見せた。
「当たり前だろ! 俺等が手伝ってんだ」
空野とは違い、素直になれず憎まれ口を叩く九助。
毎週集まってはほぼ一日がかりで、まるで勉強合宿かのように朝から夜まで宿題三昧。これで片付か無かったら嘘だろうと言うくらい頑張っていた。
「手伝ってやれるものは良いとしてもなぁ……」
九助は懸念していた。算数のドリルや国語の漢字のプリントはいいが、自由研究や読書感想文等厄介なものもある。それらはどうしてやる事も出来ないのだ。
「読書感想文は大丈夫だと思うよ」
「何でそんな自信満々なんだよ?」
「私が貸してあげたもん! 読んでたら大丈夫!」
自信満々に言うほたるは、読書感想文用の課題図書の大半が家にある事に気づき、桃も含めコギャル二人にも声をかけて一度ほたるの家へと呼んでいた。
ほたるプロデュースでアホ二人にも理解出来てなるべく頁数の少ない小説を貸してあげた。
それは夏休みに入る直前のこと。今は8月中旬になり、折り返しだ。
「なるる、るるな〜! 読書感想文、どーなった?」
貸しただけでその後の二人を放置していたほたるは、流石に恐ろしくなり聞いてみた。
「ギクッ!」
「うっ!」
不意をつくほたるの質問に、アホっ子二人は明らかに動揺している。これは、ひょっとしなくてもひょっとするとほたるは勘づいた。
「まさか……?」
「だってぇ〜、活字見ると眠くなっちゃってぇ~」
「漫画だったら集中して読めるのにぃ〜!」
言い訳をする二人は、夏休みに入り少女漫画と少年漫画を読み耽り、毎日三冊は読破していた。
一方の読書感想文の小説は、読もうと試みて表紙をめくるも当然ながら活字だらけの現状に、全く読み進められないどころか、睡魔が襲ってきて一文字も入って来ず、秒で寝ると言う特技をこの夏休みに身につけるに至った。
それくらい小説を読むのが苦手で、案の定、二人して殆ど読み進められていない。最早手付かずと言っても過言ではない。
それを説明され、知ったほたるは、小説を貸して二人に任せたことを後悔して大きなため息をついた。
「なんてこと……」
「ま、予想の範囲内なオチだよな」
「……そうなりますよね」
「でもこればっかりは手伝ってあげられないからねぇ……」
優等生四人はそれぞれ何となく予想出来るアホっ子二人の言葉にやっぱりとそれぞれ反応した。
もう一冊読んで代わりに感想を書き殴り、それを二人が自身の字で清書すると言うやり方もあるだろう。それでは彼女達の感想にはならないし、何より文面でバレるリスクがある。そんな船に四人も乗りたくはない。諸刃の剣で、タイタニックの様に沈没決定だ。