端午の節句



side 九助



翌日、今度は空野も含めてちびうさ達は九助の家へと向かった。

「鯉のぼり、いっぱい泳いでますねぇ〜」

上を見ると鯉のぼりが風になびいて泳いでいた。どの鯉のぼりも親子で泳いでいて、楽しそうに見える。

「空野んちの見た後だから大したことないように見えるのが残念だわ」
「あれは特注だからね。仕方ないわ」

ちびうさとほたるは、空野の鯉のぼりの大きさに慣れてしまい、行く先々の鯉のぼりが小さく見えてしまい、残念に思った。
空野に悪気は無いのだが、お坊ちゃまと言うのは甘やかされていてダメだと感じた。

「九助の家、見えて来たよ!」

蕎麦屋の方向を指さして桃が叫んだ。
その方向に顔を向けると、蕎麦屋の屋根から鯉のぼりがあり、何ともミスマッチ感が否めない。

「わぁー、蕎麦屋に合わないね」
「ちょーMM(マジ、ミスマッチ)だね」

流石のなるるとるるなも蕎麦屋と魚のミスマッチさに衝撃を受けた。

「寿司屋とかなら商売繁盛になりそうだろうに、蕎麦屋じゃなぁ……」
「でも、結構混んでますよ?」
「本当だ。何で?蕎麦屋とこどもの日って余り関係無さそうなのに」

桃の予想に反して蕎麦屋は謎に繁盛していて、店の中を見ると満席になっていた。

「冷やし中華でも始めたのかな?」
「蕎麦屋はざる蕎麦でしょ?」
「あ、そっか!」

鯉も喜ぶ程の快晴で、外は少し歩けば汗ばむ程の暑さ。そろそろ冷たい系の飲食が欲しくなる時期になっていた。
なるるとるるなは時期的なメニューで混んでいるのだと予想した。

「ちっげーよ、ばーか!」

ちびうさ達の声が聞こえて来たが、中々家に来ないので九助が外に出てきた。

「ゴールデンウィーク限定でちまき付けてんだよ」
「ああ、それで混んでたんだ」
「ちまきと蕎麦ね!合うね。合う合う」
「だろ?俺が考えたんだぜ?すげーだろ!」
「九助、調子に乗らないの!」

得意気に自慢する九助に、後を追って来た姉の琴乃に怒られる。
琴乃の隣にはもう一人、黒髪ロングの美少女も立っていた。

「レイお姉ちゃん!」
「ここには、レイちゃんがいたか……」

昨日の美奈子に続いて、今度はレイがいた。
九助の姉の琴乃とレイは同じTA女学院に通うお嬢様。超常現象が好きな琴乃にとって霊感のあるレイは最高の友達なのだ。
積極的に友達を作らないレイにとっても有難い存在だ。
そんなレイが九助の家にいるのは不思議では無い。しかしちびうさは昨日の美奈子と言い、暇なのかと会いたくない場所で知り合いに会い、憂鬱な気分になっていた。
最もレイは美奈子と違っておっちょこちょいでは無いので、そこは安心していた。

「ちびうさもほたるちゃんも久しぶりね」
「レイお姉ちゃん、何してるの?」
「私も鯉のぼりと兜を見に来たの」
「そうだ、兜見たい!」

レイの言葉に目的を思い出した一同は、家の中に入る事にした。

「これが俺の兜だぜ。まぁ、ぐりのよりは全然だけど……」
「そんなことないよ!素敵だよ」
「ええ、九助くんの兜、かっこいいですよ!」
「普通はこんなだよ」
「うん、何だかホッとする」
「九助のご両親が普通の金銭感覚を持ってて安心したよ」
「それ、あんま褒められてる気しねぇ」

俺も一応はボンボンなんだけどな。姉ちゃんはお嬢様学校に通ってるし、と九助はブツブツと不満を口にしていた。

「褒めてるんだよ!素直に喜べば」

素直じゃないな九助はと桃がニヤリと笑う。

「鯉のぼりも九助らしいよ」
「そーそー、ちょっと蕎麦屋とは合ってなかったけど」
「うるせー、ほっとけ!」

空野の家とは段違いで比べるものでは無いとは分かりつつも、実際格の違いをまざまざと見せつけられて思いの外凹んでいた九助だったが、桃達の励ましで泣け無しのプライドは保たれた。




おわり

20240505 こどもの日


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