端午の節句



side 空野


「うっわぁ、すっごい……」
「でっけぇ~~~」

ちびうさと九助は、やっとの思いで言葉を発した。
しかし、桃、なるるにるるな、そしてほたるの四人は驚きで言葉が出てこず、その場でただただ呆気にとられている。

端午の節句と言う事で今日は空野家に呼ばれていた。
全員で空野の家へと向かっていた。
道すがら、男の子のいる家だろう。鯉のぼりがぽつりぽつりと泳いでいるのを眺めながら来ていた。どれも可愛いなと微笑ましくなる親子三びきの鯉のぼり。
しかし、空野の家が近づいてくると、その鯉のぼりのスケールがまるで違っていた。
遠くからでも空野の家の鯉のぼりだと分かるほどのデカさだった。

「さっすが御曹司!全然違うね」

ほたるやなるるだって充分お金持ちの令嬢なのだが、女の子なので鯉のぼりは流石に無い。
空高く、正に登って行かんばかりに風を受け、自然の力を借りて羽ばたいている空野家の鯉のぼり。ここに来るまでにあった鯉のぼりより遥かに高い位置で大きな、まるで龍では無いのか?と思う程の大きさの鯉のぼりが四つ、そよ風にヒラヒラと泳いでいた。

「そりゃあ、見せたいわけだわ」

是非見に来て欲しいと休み前に前のめりで行ってきた空野を思い出し、桃は呟いた。
このどの家にも劣らない、何処に売ってたのか分からない大きさの鯉のぼりを見て欲しかったのだと一同は悟った。
要は、自慢したかったのである。これだからお坊ちゃまは、とその場の誰もが項垂れた。

「皆さん、来ましたね!」

外で鯉のぼりを見上げて圧倒されていると、空野が家から出てきて出迎えた。

「おう、ぐり!鯉のぼり、すっげーな!」
「特注なんですよ。デザイナーさんにデザインして貰ってかっこいいものを作ってもらいました」
「だからこんなにデカくて何か他の家と違ったんだ」

他とは逸していた理由を聞いてるるなは納得する。

「主役はこれじゃないので、中に入って下さい」

空野に言われるがまま、お邪魔しますと言いながら家の中へとなるる達は入っていった。
通されたのは一階の和室。そこには兜が置いてあり、中を覗くと空野の姉であるひかると、もう一人女の子が机を挟んで向かい合って座っていた。

「美奈子お姉ちゃん!」
「やっほー、ほたるちゃんにちびうさ!」
「いや、何で美奈Pがいるの?」

美奈子を目で捉えた瞬間、ちびうさがあからさまに嫌な顔をした。
以前、空野の姉と美奈子が仲良しだと発覚したが、まさか今日この日にここで会うとは想定外だったのだ。

「鯉のぼりと兜を見に来たの」
「暇なの?くれぐれもドジして壊したりしないでね!」
「ダイジョブ、ダイジョブ!任せてちょーだい」

ちびうさの注意に美奈子はお得意のウインクとVサインで得意気に答える。
うさぎと同じかそれ以上のドジであることを知っているちびうさは、やらかさないか内心ヒヤヒヤだ。
先程から目に入ってくる兜は、やはりとても立派なもので、多分一番高いだろう代物。こんなものをついうっかりで壊されでもしたら。アイドルとして成功しない限り絶対美奈子には弁償出来るものでは無い。
それが分かっているから美奈子の行動が怖いのだ。

「いい?美奈Pはそこに大人しく座っててね!ウロウロしないで!」
「大丈夫だって。ちびうさ、心配性ねぇ〜」
「大丈夫じゃ無さそうだから言ってるの!万が一壊しても高価だから美奈Pには返せないって分かってる?」
「ちびうさちゃん、お姉さんみたい」

美奈子とちびうさのやり取りを見てほたるは微笑ましくなった。美奈子とちびうさ、逆になっていると。
しかし、ちびうさは小学校に通っていて子供の見た目だが900歳を超える大人だ。美奈子よりも遥かに年上だから何らおかしくは無い。
ただ事情を知らない人からすれば、ちびうさは大人びてしっかりしているという印象を受ける。

「しっかし、兜もマジでずげぇよな。俺のも立派なもの買ってもらったけど、負けた」

いや、勝敗など最初から無意味。所詮、大企業の御曹司と街の一流蕎麦屋とでは結局雲泥の差だ。最初から分かっていたことだったが、九助はそれをまざまざと見せつけられたような気がした。

「お金をかければいいと言うものでは無いわよ。この和室に合うものをと父が張り切っただけなの」

見るからに落ち込む九助に、ひかるがそう説明した。空野が欲しかったものではなく、父親が欲しいものを買ったらしかった。

「僕は九助くんのも楽しみにしてるんですよ!」
「いやぁ、俺のはどっちもちいせぇよ」

この休みは空野と九助の家に行くことになっていた。鯉のぼりと兜を見るという名目だ。
ただ、分かっていたとは言え、九助は先に自分の家に来てもらえば良かったなと後悔先に立たずで、この後のことを考えると気が重かった。


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