友達と過ごす誕生日


はるか達は、今目の前で繰り広げられている光景に感動していた。
ほたるの誕生日に、クラスの友達が数人わざわざ祝いに来てくれている。その事に、はるか達は嬉しかった。
ほたるの誕生日とは言え、年明けで、しかも学校は当然ながら冬休み。そんな長期の休みの最中にほたるの誕生日を祝いたいと言ってくれる友達が出来た事に、はるか達は感動だった。

「ほたるも、随分と活発になったよな」
「ええ、そうね」
「感慨深いわね」

赤ん坊としてもう一度この世界に生まれ変わり、育てようとしていた時はまさかこんなに友達が出来るとは思っていなかった。
前のほたるは、事故に遭って以来凡そ人としての生活は難しく、体が弱かった。
戦士として覚醒してから見張っていたはるかとみちるから見ても大人しく、同級生からはいじめられている様だった。
普通の子として育てたい。その想いから、せつな達はほたるをなるべく普通に育てて来た。その結果が今、目の前で友達に囲まれて笑顔で過ごすほたるの姿だった。

「小さなプリンセスのお陰かしら」
「僕らのプリンセスのお陰もあるな」
「二人には感謝ね」

うさぎの思いとは裏腹に、彼女の力で再転生が出来たほたる。成長してからはちびうさと同じ歳になり、同じ小学校に通い始めた。
ちびうさを通して、クラスメイトと仲良くなり関係性を継続させていた。ただ一つ違うことがあるとすればそれは、この場にそのちびうさがいないことだ。

「ここに、スモールレディがいないことだけが残念だけど」
「一番仲良かったものね……」
「仕方ないさ。彼女には彼女の居場所がある」

ほたるとクラスメイトの絆を結んだちびうさは、ここにはいなかった。居るべき場所ーー未来のクリスタル・トーキョーへと帰ってしまった。
分かっていた事とは言え、やはりこの場にいない事は残念に思えた。ちびうさにも普通の生活を味わって欲しい。ほたるの誕生日を祝ってあげて欲しいとせつなとみちるは考えていた。
ほたる自身は何も言わないが、きっと笑顔の裏にはちびうさがいないことの寂しさを隠しているに違いなかった。

「本当にせつな先生がほたるちゃんのママだったなんてねぇ~」
「ちょ〜バビった!」
「不思議な感じぃ〜」

桃がそう零すと、なるるとるるなも同調する。
苗字が違う事もあり、お互い言わないというルールを設けていたのだが、ひょんな事からバレてしまった。
その為、似ていないこともあって信じられなかったのだが、今回ほたるの誕生日に来訪した事で確信に変わったようだ。

「おほほほ〜」
「えへへぇ〜」

当の本人であるせつなは、気まづくなり苦笑いをするが、ほたるは笑顔で答えていた。

「それより僕は、あの海王みちるが本当にほたるさんの家族の方が驚きですよ!」

大のクラシック好きの物好きな空野が、目の前にみちるがいる事に感動していた。

「本物、ですよ、ね?」
「うん、本物だよ!」

未だに信じられず、空野はしつこく聞いてくる。
ほたるはそんな空野に嬉しそうに答える。

「俺は、天王はるかがいる事の方が驚きだぜ!」

スポーツ観戦が趣味の活発な九助が驚きの意を示して来る。
みちるも有名人だが、はるかも天才レーサーとして名を馳せていた。そんな偉大なスポーツ選手が目の前にいる。九助にとってはただそれだけで夢見心地だ。

「知って貰えてて、嬉しいよ」
「わ!話しかけられた!しかも笑ってる!」

素直な九助は思った事を口にする。

「ゴホンッ!今日は私の誕生日会に来てくれてありがとう」

そんなマイペースな五人に対して、ほたるは主役らしく主導権を握り直し、その場を取り仕切る。

「お返しと言ってはなんですが、ヴァイオリンを弾きたいと思います!」
「わぁー、ほたるちゃんのヴァイオリン!」

祝いに来てくれたお返しに、ほたるがヴァイオリン演奏をすると言うと、桃達女性陣は喜んだ。
日頃ヴァイオリンを弾いていると言っていたが聴く機会に恵まれず、ずっと聴きたいと思っていたのがやっとだった。
冬休みに入る前からほたるはこの日の為に練習していた。ほたる自身も発表の場が無いため、披露できる場が出来て嬉しくなり、つい毎日過度な練習になっていた。
クラシックは分からないが、なるるもるるなも聴き入っていた。九助も、ほたるの腕前に驚きを隠せないでいる。

「ブラボー!」

三曲披露したほたるは、お辞儀をして演奏を終了した。同時に空野が拍手をして絶賛する。

「じゃあ次は私ね」

みちるも保護者として演奏をする為、ヴァイオリンを用意していた。

「よ、待ってました!」

思わぬサプライズに空野は喜びを爆発させる。

「あーぐりぐり、それが目的で祝いに来たわねぇ?」
「ち、違いますよ!たまたまです。そりゃあ、ちょっとは期待してましたけど……」
「ぐり……」

ほたるは空野の魂胆に気付き、咎めると空野は慌てて取り繕うが、素直な気持ちを吐露してしまう。やはり本音は隠せないようだった。

「うふふ。今日はほたるの為にありがとう。ゆっくりしていってね」

一礼するとヴァイオリンを構えてみちるは演奏を始めた。するとその場の空気は一変。みな、プロの演奏に圧倒される。
ほたるの演奏も上手かったが、それ以上のみちるの演奏に言葉を失った。まるでヴァイオリンの奇術師だと誰もが思った。

「クスッじゃあ、ヴァイオリンの演奏に合わせて歌いましょうか?バースデーソングを」

一曲軽く演奏したみちるは、そういうとまたヴァイオリンを構えて演奏し始めた。
みちるの提案に桃達も素直に乗っかり、合唱し始める。
みちるの奏でるヴァイオリンの音色と、仲良しのクラスメイトの歌声にほたるは感動していた。
友達と遊ぶと言う前の人生では無かったことに、生まれ変わって来て本当に良かったとほたるは思った。
当たり前の健康的な体に生まれ変わり、前の人生を思い出した時、出来るだけ普通に、それでいて元気に過ごしたいとほたる自身も思っていた。その甲斐あってか、前とは全く違う日々を過ごせていて、とても幸せだった。

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