MajiでKoiする5秒前
「おおっと、この子は渡せねぇな」
そう言って、なるるを自分の近くへと寄せた不良A。
「顔も可愛い顔してんじゃん!俺好みだわ」
身体を自分自身に向けた事によって、顔もこちらに向いた為、不良Aは顎を上げてまじまじと見た。
小学生とは言え、ギャル姿のなるるはそれなりに大人っぽい見た目に仕上がっていて、年より上に見えていた。
「俺たちの中学にはいないタイプだな」
不良Bは、Aの言葉に同意する。
「上玉に当たってラッキーじゃん!」
「俺たち、運がいいな」
続いてCとDもそう呟き、不敵な笑みを浮かべる。
馬鹿ななるるは、Dの最初の言葉をそのまま鵜呑みにしていた。唯一この中で味方かと思っていたD。止めてくれたのに何故?と恐怖で余計に頭が回らなくなり、目には涙が溜まり、今にも零れ落ちそうになっていた。
ドンッ
再び鈍い音が鳴り響く。
不良集団となるるは、何があったかと見渡すと空野が不良Aに体当たりしていた。
「なるるさん、行きましょう!」
空野が再びなるるの手を取ろうとしたその時ーーー。
ドカッ
やられた不良Aが拳に力をいっぱい込めて空野の顔を殴り付けてきた。
ドサッ
「ぐりぐり!」
地面に倒れた空野に、名前を呼びながら解放され自由になったなるるが駆け寄る。
「おっと、なるるちゃんは俺らと一緒に行くんだよぉ」
なるるの名前を呼びながら、肩に手を置いて不良Cはそう言った。
名前を呼ばれたことでより恐怖が増したなるるは、完全に泣き始めてパニックになり始めた。
「いやぁー、助けて!ごめんなさい!ぶつかってごめんなさい」
自分がぶつかってしまったことで引き起こしてしまった状況に、なるるはただ泣きながら謝るしかなった。
大きな声で何度も謝りながら泣きじゃくるなるるに、オロオロし始めた不良集団。
その隙に、回復してきた空野は起き上がり、ありったけの力を込めて再び集団にぶつかって行った。
ドンッ
ドサッドサッドサッドサッ
空野が伸びていると思っていた集団は、完全に気が抜けていて、ぶつかった拍子にドミノ倒しになった。
「今です!なるるさん、逃げますよ」
頭の回転が早い空野は、身体を動かすのも早く、またなるるの手を掴み走り出した。
一目散になるるの家へと急いで走る空野は、必死だった。なるるも泣き止んではおらず、必死に空野の走りについて行く。
その間、二人は無言だった。
「はぁはぁ、やっと。着きましたね」
「怖かったぁ。ぐりぐり、ありがとう」
「男として、か弱い女の子を守るのは当然の事ですよ」
当たり前のことをしたまでですとヘラヘラと笑う空野。何でもない風に装っていたが、空野にとってもこんな経験は初めてのこと。
泣きながらもなるるは、空野の体が小刻みに震えているのを見逃さなかった。
「本当に、ありがとう」
「今回は、ギャル語じゃないんですね?」
「うん」
ギャル語を封印して真面目に感謝の言葉を言うなるるに、空野は少し驚き調子が狂いそうになる。
そんな空野をお構い無しに、チュッと頬っぺにキスをして感謝の意を示すなるる。
「ちょっ、何するんですか?もう、僕は帰ります!」
なるるの思いがけない行動に、思考回路はショート寸前になってしまった空野は、照れ隠しに帰ろうと踵を返した。
「気をつけて帰ってね、ぐりぐり」
帰っていく後ろ姿の空野を見送りながらなるるは、頼もしい後ろ姿に、確かに今までと違う何かを感じていた。
「この気持ちは何だろう……」
まだ小学生のなるるには、それが恋だと気付かなかった。
理解するにはなるるの精神はまだ子供で、まだまだ先の話だった。
おわり