エリちび短編SSまとめ



『僕だけの乙女(エリちび)』



「すっごく楽しいね、エリオス」

幸せそうに上目遣いで微笑む僕の乙女。
彼女が幸せであるなら、僕の行動は間違っていなかったのだと感じた。

「そうだね。来て良かった」

僕の乙女ーーちびうさちゃんと来ている場所は、遊園地。デッド・ムーン・サーカスの跡地に出来たテーマパークだ。

「こんなのが出来てたなんて知らなくて、驚いたけど素敵だね」

デッド・ムーンとの戦いが終わって数年。ちびうさちゃんは30世紀へ、僕はエリュシオンへとそれぞれの場所で頑張っていた。
そんなある時、プリンスから休暇という名目で東京に招待が来た。エリュシオンから離れるのはと思ったが、他でもないプリンスからの招待とあっては断る理由が無く、あれ以来の東京と言う場所に赴いた。
プリンスとの待ち合わせ場所に行くと、そこにはちびうさちゃんがいて驚いた。
彼女も又、未来からプリンセスに呼ばれていたらしく、いるはずのない僕の顔を見て驚いていた。
ちびうさちゃんの話によると、プリンスとプリンセスと三人で遊園地に行く事になっていたとのこと。
しかし、待てど暮らせどお二人は来ない。その代わりに僕が現れ、驚いてお二人に連絡を取ると、二人で遊園地デートしておいでと言われたそうだ。お二人からの僕達へのプレゼントと言う事みたいで、ご好意に甘え、今現在こうして遊園地デートをしていた。

「エリオスとここで又こうして過ごせて嬉しいよ」

ちびうさちゃんがこうして喜んでくれて僕は単純にホッとしている。僕は正直複雑だった。
もう終わったとは言え、デッド・ムーン・サーカス団跡地に出来たテーマパーク。そんな所に行くのははばかられた。
どうなっているのか?どんな気持ちになるのかが怖かったのだ。
けれど、あの戦いの後、こんな素敵なテーマパークに生まれ変わっているなんて予想だにしていなかった。デッド・ムーン亡き今、普通の遊園地として生まれ変わるとは考えもしなかった。
何でもプリンスとプリンセスがゴールデン・クリスタルと銀水晶で復興した結果の副産物として出来たのだそうだ。優しいプリンセスの事だ。きっと心の片隅に楽しい想い出があったのだと思う。

「僕は、正直怖かったよ」
「どうして?」
「余りいい思い出がないから。乙女に、危険な目に合わせた場所でもある」
「だからだよ!?エリオスと出逢えた場所でもあるから。いい思い出、作りたかったんだよね。えへへ」
「ちびうさちゃん……」

乙女の胸の内を聞いて、僕は胸が熱くなるのを感じた。そんな風に思ってくれていたなんて。
僕ももっと前向きにならないとな。いつも彼女の笑顔と言葉で救われている。本来ならその笑顔を守るのが僕の役目だと言うのに。

「あ、エリオス!今度はあれ乗ろ?」

辛かった戦いを、楽しい思い出へと書き換えようと乙女は笑顔で駆け出して行った。

「エリオス〜〜〜」
「ちびうさちゃん!」

単純に可愛い。一人でメリーゴーラウンドに乗っている乙女を見て、笑みが零れる。楽しそうで何よりだ。乙女の幸せが僕の幸せだと思う。でも、湧き上がるこの感情は、何だろう?
メリーゴーラウンドに乗る乙女を見て、複雑な気分に陥っていた。
笑顔で楽しそうな乙女を見るのが僕の幸せなはずなのに、今はその笑顔に胸が苦しくなる。締め付けられる。
この感情は、なに?
メリーゴーラウンドの様に、ぐるぐるぐるぐると嫌な感情が回る。辛い。笑顔を見ていられない。僕を見て微笑んでくれていることは分かってはいても胸がざわめく。
僕の愛馬以外の馬に乗らないで!乗って笑顔を振りまかないで!なんて心の狭いこと、言えるわけない。

「メリーゴーラウンド、楽しかったぁ〜。エリオスも乗れば良かったのに」
「いや、僕は……」
「そう、だよね。本物の馬とは、やっぱり違うもの」
「楽しそうだったね」
「でもやっぱり、エリオスの馬が一番乗り心地良いよ」
「ちびうさちゃん……」

ああ、僕はなんてちっぽけな人間だったのだろう。僕以外の馬に乗って楽しそうな乙女に、嫉妬していたなんて。
乙女の一言で、たったの一言でモヤモヤした心がスっと溶けていくのを感じた。

「僕の乙女。僕だけの乙女……!」

人目もはばからず僕は、ギューッと乙女を抱き締めた。
僕の乙女のおかげで無事、この地での想い出が素敵なものに上書き保存された瞬間だった。




おわり

20240616


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