LITTLE PRAYER(S)
「それと、もう一つ聞きたいことが」
「何ですか?」
「以前、宇宙の未来をかけた戦いにセーラームーンを援護しに行った時、ある人が言っていたんですけど、セーラームーンはずっと戦いを背負っていく運命だって言っていて。それって、月の王国のクイーンが宇宙で一番力を持っている銀水晶があるからでしょうか?もしかして、クイーンも……」
私はちびちびと言ううさぎに似た子に言われた言葉がずっと引っかかっていた。
宇宙の未来をかけた戦いをセーラームーンだけが背負うのは何故なのか?
どうしてあの時、私は手出しをせず見ているだけしか許されなかったのか?
そして、クイーンは死んだ後一体どこにいて何をしているのか?
「あなたの言う通り、月の王国は銀水晶の力のおかげで千年と言う長寿。シルバーミレニアムも繁栄し、太陽系のみならず全銀河の星々全てから羨む存在。ずっと宇宙一の王国として君臨してきました。私の肉体はここにはありません。実態は遠くで少し違う姿であなた達を見守る存在として君臨しています。元々そういう運命でした。ですが、月の王国が滅んだ事により、王国を滅ぼしてしまったと言う前代未聞の女王として死んだ後は、来世でずっと、何十億年と宇宙を護る存在として一人孤独にある場所で貴女方星々を導き見守っています」
クイーンの口から語られた言葉は、信じられない話だった。信じ難いものだった。
だけど、信じられないことばかりの現実を目の当たりにして生きてきたから、驚きはあったけど、受け入れられないという事にはならなかった。
隣で聞いていたエリオスも驚きを隠せないでいるようだった。何も言葉が出てこない。発する言葉がないように見えた。
「それは、ママが受け継いだ後、役割が私に回って来ますか?」
「貴女もシルバーミレニアムの血を引く王女。この世での役目を終えた後、そうなるでしょうね」
クイーンは申し訳なさそうな顔で俯きながらそう言った。月の王国の跡継ぎとして生まれた運命と行き着く場所の孤独と壮大な戦いを課す話。当然、私の顔なんてまともに見れないよね。
「この事は、ママは?」
「前世では何も重要な事は伝えられなかったわ。あの時のあの子にこんな話をしてもきっと理解出来ないし、益々現実逃避をして月より地球に逃げていたと思います」
本当にうさぎは何も知らない無邪気なお姫様だったんだなって。
だけど知らぬが仏って言葉はあるけど、決してそんなことはないと思う。理解が出来なくても、非現実的でも話を聞いていれば敵との戦いの度に狼狽えずに済んだはずなのに。
「もっとセレニティとお話していればよかったと後悔はありますね。長い年月があるからと今じゃなくても彼女がプリンセスとしての自覚を持った時にと先延ばしにしなければ、もっと事態は変わっていたかもしれないと」
考えてもどうしようも無いタラレバ話だ。
前世がなのか、今世の過去がなのかは分からないけど、少しでも変わっていればって気持ちはよく分かる。
「それじゃあ、ママは死んだ後も宇宙を護り戦う戦士に?」
「永らくの私の役目も漸く終わり、あの子に託されることでしょう」
「そして、ママが終われば私の役割……」
「レディ……」
「スモールレディ、気に病まないで。今はただ目の前のことにだけ集中しるのです」
来世のことを考えて暗くなっていると、二人に心配された。
私は過去で、色々知りすぎた。未来を見すぎてしまった。
本当はこんな事は無いし、プルートのように未来を知ってはいけない。タブーを色々犯してしまった末のイレギュラーでの悩み。
本来ならば今で精一杯なはずなのに……
「クイーン?」
色々考えていると横で切羽詰まった様なエリオスの声が聞こえ、ハッとなり現実に心が戻ってきた。
顔を上げると、クイーンの身体は透けていて。時間が無いことを知る。
「どうやら今回はこれでお別れのようですね。私は未来の事を話しすぎたみたいです」
「クイーン、色々教えて頂きありがとうございます」
「クイーン、あなた様にお目にかかれて本当に光栄でした。あなたの孫娘、スモールレディは僕がずっとそばにいて支えます」
「くすっ頼みましたよ、エリオス。そしてスモールレディ、あなたらしくね!」
「はい」
それぞれ最後の挨拶を済ませる頃にはクイーンの姿はもうそこにはなく、塔が静かに立っているだけだった。
「レディ」
「エリオス……」
文字通りエリオスはずっと傍で見守ってくれていた。
銀水晶の事や死んだ先にある過酷な運命。エリオスはどう感じただろうか?
最後にクイーンに言ってくれた言葉が全てだとしたら、嬉しい。
「そろそろ地球に戻ろうか?きっとみんなが心配してるよ」
「うん、そうだね」
そっと私の手を握るエリオスの手があまりにも温かくて優しくて。胸がいっぱいになる。
込み入った話をしたから時間がかなり経っていた。
「今度は僕の愛馬で!」
どこからとも無くエリオスの愛馬、ペガサスが現れる。
先に慣れたように乗ったエリオスは私に手を差し伸べてくれた。本当に王子様のよう。私は照れながら手につかまり、ペガサスに乗った。
「しっかりつかまっていて」
後ろから背中をギューッとキツく抱き締める。
「エリオス、ありがとう。大好き♡」
小さな声で言った最後の言葉はエリオスの耳には届かなかったみたいだけれど、私はエリオスと月に来られた事が嬉しかった。
色々な事を聞いて不安になったけれど、エリオスがそばにいて支えてくれたら大丈夫だって抱き締めた背中の大きさに安心しながら地球へと帰って行った。
おわり
20230918 敬老の日