LITTLE PRAYER(S)


「うわぁ~、すごい……」

これが月に到着して復活したシルバーミレニアムを見たエリオスの第一声だった。
その感想は率直で、嘘偽り無いものだと分かる。私も初めて来た時同じ様に驚いたから。
エリオスは感嘆のため息をついたあとは、ただひたすらに言葉を失い見とれていた。
完全復活を果たしたムーンキャッスルを見て圧倒されているんだと思う。信じられない気持ちになって言葉を失っていると見て取れる。

「本当に復活したんだね?」
「うふふ」

目の前に広がる光景に圧巻されているみたいだった。
ただただ目の前の光景に驚きを隠せ無いエリオスを見て、嬉しくなる。

「本当に月に来れたんだね」
「びっくりだよね。気に入ってくれた?」

何故ここにエリオスを連れてきたかと言うと、一度連れてきたかったと言う単純な理由。
エリオスに復活したシルバーミレニアムを見て欲しかった。月の王国がどんなものなのか知って欲しかった。それが全て。

だけどもう一つ。私とエリオスは特殊な環境に身を置いている。
私はクリスタル・トーキョーのプリンセスで、エリオスはエリュシオンの祭司。そこに暮らし、滅多に外に出ることは無い。
そんな私達の逢瀬は自ずとそのどちらかになってしまう。仕方ないし文句もない。そう言うものだと思っている。
だけど、たまには違う環境に身を置きたいと思う事もある。
ただ、タイミングが無くて中々月に連れていく機会が無くて。

「良かったのですか?ここに来て……」
「うん。月を見て綺麗だって呟いていたのはエリオスだよ?行きたそうにしてたし」
「いや、そんなつもりでは」
「素敵なところだったんだろうなって言ってたから、連れて行ってあげたいって思ったのよ」

月に来る前にエリオスは月を眺めて黄昏ていた。祈りを捧げていて、何か物憂げに浸っているように見えた。
祈る事を仕事としているエリオス。同じく月には祈りの間があり、祈る事が日常。きっと祈りの間を見たいはず。そう考えて月に来ようと決めた。
パパやママには言ってないけど、反対はしないはず。ママもきっとそれを望んでる。そんな気がした。

「レディ、ありがとう。君も、何か悩みがあるのでは?」
「エヘヘ、ど、どうして?」

エリオスの言葉にドキリとする。
見透かされていた。隠せていると思ったのに。やっぱりエリオスにはかなわないな。ちょっとした事も見逃さないでいてくれる。心配させまいと思っていたけど、お見通しだったみたい。
そう、私には少し悩んでいることがある。
それはエリオスに言っても、ママやパパ、カルテット達にも解決しそうに無いこと。
だから、エリオスにも言わずにいた。心配させなく無いというより、相談しにくい。ただそれだけの事で言わないと決めた。
月に来たかった理由の本心は、クイーンに会ってその悩みを解決したかった。エリオスも紹介したかったし、連れてきたかったのも本心だ。

「レディが何かで悩んでいる事は何となく感じていたから。僕に話せないこと?」
「ごめんなさい、心配かけて。大した悩みじゃないの。だけどずっと引っかかっていることがあって、ここに来て確かめたくて。エリオスを連れてきたかったのも本音だよ?」
「こっちこそごめん。責めてるわけじゃないんだ。何も出来ないけど、恋人として力になりたいし寄り添いたいと思っただけなんだ」
「ありがとう、エリオス。じゃあずっと傍にいてくれる?」
「もちろん!」

恋人として力になって寄り添いたいと言うエリオスに胸が熱くなる。私の事、色々考えてくれている事に嬉しくなった。

「じゃあ、ムーンキャッスルの中へ行こう!」

ずっと傍にいてくれると力強く答えてくれた恋人の手を取り、笑顔でムーンキャッスルの中へと入って行く。
お城の中はあまり詳しくないけど、色々案内して行った。
ムーンキャッスルにはクリスタル・パレスの様に人が大勢いない。と言うか私とエリオス以外は誰もいない。二人だけの空間でのデート。思う存分イチャ付ける。
広い城で追いかけっこしたり、隠れんぼしたりして地球では出来ないデートをエリオスと楽しみながら祈りの間へと向かっていった。

「エリオス、ここが祈りの間だよ」

祈りの間の扉の前に立ち、エリオスに伝える。

「ここにクイーンが……」

私はパパやママと一緒にここに来てクイーンに会った時のことを話していた。
クイーンにいつも会えるとは限らない。今日だって会える保証はないわけで。
でも、何かある時は会える気がして。今日もきっと会える。そんな自信があった。

「そう、入るよ」
「うん」

扉を開けて中に入る。
中を見たエリオスは、その広さや立派に聳え立つ祈りの塔に圧倒され、息を飲んでいた。
エリュシオンの祈りの塔も充分立派だけど、やっぱりエリオスにはこっちも立派に見えるのかな?

「ここでクイーンやプリンセスがいつも祈っていた塔ですか?」
「そうみたいだね」

ムーンキャッスルの祈りの塔を見れた事にエリオスは感動して、顔を見ると輝いていた。本当に祈る事が好きなんだな。

「エリオスも、祈ってみる?」
「ええ?」

私の提案に目に見えて驚くエリオス。
いや、そんなに驚く事は無いと思うよ?
クイーンやプリンセス以外が祈っちゃダメなんてルール、無いんだからさ。

「い、良い……の?」
「うふふ、良いよ。きっと、クイーンも喜ぶと思う」
「じゃ、じゃあ」

お言葉に甘えてと言いながらエリオスは跪き、頭をたれ、目を閉じて手を固く結び、静かに祈り始めた。
その姿や所作は慣れているもので、とても綺麗で神秘的なもので、私はドキリとつい見とれてしまった。

っと、いけない。エリオスに見惚れている場合じゃないわ。私も祈らなくては!

私はエリオスに遅れて同じ様に祈り始めた。

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