リボンの戦士
小さい頃からの親友が、最近少し変わった。周りには分からない、とても小さな変化。それでも、私にはその機微な変化をとても敏感に感じ取っていた。
「でね、その美奈ちゃんがね?」
その変化の一つである人物の名前が上がる。
うさぎが言う美奈ちゃんと言うのは、最近よく名前に上がる一人で違う学校のお友達。
うさぎに友達が出来ることには別に何らおかしなことではない。寧ろ、当たり前と言うか、所謂友達作りの天才で、どんな噂の子や偏見があっても物怖じせずフィルターをかけずに話しかけて、あっという間に仲良くなる。そんな子だ。
だからと言うわけじゃ無いけれど、今回もそれが発動しただけと言えばそうだけど、そう割り切るにはちょっと腑に落ちない。
理屈じゃ無いけど、何となく“あれ?”って引っかかる。妙に親しげと言うか、最近出来たにしては私以上に仲が深いと言うか……
うさぎに友達が出来るのは親友としては嬉しい。いい子だし、明るくて素直でちょっとおバカで世間知らずで天然なところもあるけれど、とっても素敵な子だもん。みんなにも魅力を知って欲しいって思ってるし、私以外の子と仲良くしていても嫉妬とかは無い。
でも、今回のはそう言うのじゃなくて……
最近出来た友達は、何だか蜜の味が含まれている。直感でそんな事を感じている。
それが何なのかは分からない。うさぎが言いたくないなら深く追求はしないし、聞いたりしない。
言いたくなったら言ってくれるって信じているし、それまで見守ってる。
……いつか、話してくれる、よね?
「ねね、なるちゃん!ゲーセン寄ってこ?」
「んもぉ~、仕方ないなぁ」
うさぎはゲーセンに通うのが好きだ。ゲームをするのも目的の一つだろうけど、もう一つそれ以外に通う目的がある。それは、ゲーセンのお兄さん。うさぎの想い人。だったはずだけど、今は違うみたい。
今は別に相手がいて、もう付き合っているって言ってた。いつの間に?と言う疑問もだけど、どこでどんな風に知り合って好きになって付き合う事になったのか。過程が全く知らないから頭が軽く混乱した。
しかも、相手は元麻布高校のエリートって聞いて、これまたビックリ!
失礼な言い方だけど、こんなアホの子と天才が付き合うって、どんな経緯か単純に興味があるし、うさぎみたいな天然を貰ってくれてありがとうって気持ち。
「ったくぅ、ゲーセンのお兄さんの事は何だったの?」
「えへへぇ~、憧れだったみたい」
追求すると下をペロッと出しておどけるうさぎ。歳が離れ過ぎてるから、相手にもして貰えないだろうし見込みある方に行くよね。それでもエリート校の男子も見込みあると思わないけど、物怖じしないから恋愛面もそうなのかもしれない。
「着いた着いた!えぇっとぉ~、来てるはずなんだけど、どこかなぁ?」
行きつけのゲーセン“CROWN”に到着して中に入ると、誰かを探し始めてキョロキョロしている。バイトのお兄さん、じゃあ無い、よね?
「あ、いたいた!美奈ちゃぁ~~~~~~ん」
目的の人物が見つかったらしく、大声でその人の名前を呼ぶ。って、美奈ちゃん?
その名前を聞いた私は驚いた。最近よく聞く他の学校の子の一人だったからだ。もう、紹介してくれるの?
うさぎのサプライズに、心の準備が出来ていない私は動揺した。どうしよう?上手く喋れるかな?
「美奈ちゃん」
「うっさぎぃ~」
「美奈ちゃん、こちら大阪なるちゃん。私の小さい時からの大親友なの」
「大阪なるです。よろしくね」
うさぎに紹介され、平静を装って自己紹介をする。“小さい時からの大親友”とのうさぎの私の紹介が嬉しくて、不安は少し飛んでいた。
「なるちゃん、こちらは愛野美奈子ちゃん。昔っからの腐れ縁よ」
「愛野美奈子でぇ~っす!よろしくね、なるちゃん」
愛野美奈子と紹介されたその子は、昔っからの腐れ縁だとか。ん~、腑に落ちないなぁ。
うさぎが言う様に私は小さい時からの大親友。お互い何でも包み隠さず話して来たし、うさぎの事は何でも知ってる。そう思っていたのは私だけ?
これは、やっぱり秘密がある。そう感じた。ここ最近の勘が、点と点が線としてうっすらと繋がった瞬間だった。
だって、腐れ縁なのに愛野美奈子なんて名前、最近まで聞かなかったし、やたらと出てくるのに、それまで何も無かったのは逆に変だもの。