戦士、ヴィーナスの誕生
「ここに呼んだのはもう一つ理由があります。その王冠を与えた事にも繋がるのですが……」
「何ですか?」
女王が真剣な面持ちで口を開いたので、ヴィーナスは再び女王の前に跪いて話を聞く体制を整えた。
「貴女には産まれる前から使命があるのです」
「使命?女王としてこの星を守る事でしょうか?」
「それもありますが、貴女はいずれ月の王国シルバーミレニアムの王女から産まれたプリンセスを守る守護戦士としてこの地を離れて月で暮らすのです」
「月の王国のプリンセスを守る戦士……」
「ええ、これは名誉な事。その時は、恐らくもうすぐに訪れるでしょう。それまでこの星で鍛錬なさい」
名誉な事。それはよく分かる。産まれた時から女王を始め、色んな人からシルバーミレニアムの事を色々聞かされていた。
それがまさか、自分が守護戦士としてそのプリンセスを傍で守る役割があったからだとはヴィーナスは、露にも考えていなかった。まだ幼いヴィーナスだが、それがとても名誉で気高い事だと言うことくらい理解出来る。
「この星の王国に代々伝わる王冠に誓いなさい。金星のプリンセスとして、戦士として太陽系を司る月の王国のプリンセスをその命の限り尽くすと」
「はい、何時いかなる時もこの命あらん限り月の王国シルバーミレニアムのプリンセスを守る為に尽力する事を誓います。金星のプリンセスとして、恥じぬ様務めます」
「よろしい。それでこそ我が娘」
「お褒めに預かり光栄です」
「お誕生日おめでとう、我が娘ヴィーナス」
「ありがとうございます」
「話は以上よ」
「失礼します」
これ以上は話すことは無い。そう言われたヴィーナスは、女王に挨拶をして玉座を後にする。
廊下を歩き、自分の部屋へと向かう道中、ヴィーナスは今しがた聞いた話を考えていた。
産まれた時からシルバーミレニアムのプリンセスを守る戦士として守る使命が与えられていたことを知り、驚いた。
咄嗟ではあったが、女王への誓いはあれで良かったのだろうかと今になって不安になる。
「はぁ……」
自室へと戻って来たヴィーナスは一人大きなため息をついた。
物心ついた時から欲しかったこの星のプリンセスである証の王冠ーーー赤いリボンを貰えた事は単純に嬉しく思っていた。
けれどまさかこの王冠授与式にて、新たな使命を言い渡され誓わなければならなくなるとは。怒涛の一日だとどっと疲れが押し寄せてきた。
「月の王国のプリンセス……か」
そう口にしながら鏡で赤いリボン姿の自分を改めて初めて確認する。
「ふふっ可愛い」
美の女神であるヴィーナスに相応しく、金の髪に映えていてとても美しい。謙遜も無しにヴィーナスはその姿を見て満足気に自身の可愛さを褒めた。
「少し、曲がっちゃってるかな?」
無理も無い。緊張感の中で初めて結ったのだ。その中でも綺麗にリボンを結えたのだ。上出来である。
「お母様みたいにハートが対になってる様になりたいな」
それはまだ仲のいい親子として過ごしていた頃の事。母がしていたリボンを不思議に思い、聞いた事があった。どうして赤いリボンが王冠なのかと。
「金星は愛の星。リボンは見方によればハートの形に見えるでしょ?二つのハートが向かい合って見えるから、女王と王女が切磋琢磨してこの星を守っている様に見えるの。だからこの金星の王冠は赤いリボンなのよ」
赤なのはハートは赤色がポピュラーだから。それに歴代女王の金髪に赤が映えるから。そう女王から説明を受けた。
赤いリボンの王冠を貰った時、漸く女王と一緒にこの星を守る役割を与えられたのだと思い、嬉しく思ったヴィーナスだったが、まさかこの王冠に月の王国のプリンセスを守る誓いをさせられるとは思いもよらない自体に驚いた。
しかし、嫌じゃないどころか嬉しく思い、誇りを持っている自分がいることに驚きを隠せ無かった。
「月のプリンセス、どんなお方かしら?」
まだ見ぬ主君、月のプリンセスを思いながら再び決意を新たに赤いリボンの王冠を結び直しながら、その日を待ちわび気を引き締めるのであった。
END
2022.10.22
愛野美奈子生誕祭2022