金星が導くスポットライト



どれくらい経っただろうか?
アンコールに答えるように再び出てきたのは美奈子。では無く、スリーライツとエースだった。
スリーライツとエースが同じステージに立っている。ただそれだけでも奇跡だったのだが、今度はこの二組で美奈子の曲を一曲カバーセッションし始めたのだ。
当然、会場は盛り上がる。スリーライツとエースが美奈子の曲を歌っている。美奈子を介して仲良くしている。飛んでもない奇跡を目撃している気分だった。

「美奈子も出てくるんだけどさ」
「アイツ、トイレ行ったっきり出てこなくってさ」
「こら、星野。これを愛野さんが聞いていたらどうするんです?」
「そうだよ、せーや。怒られるよ?」
「アハハ」
「ところでスリーライツの三人は、美奈子とどう言う関係?」

軽快にトークを繰り広げるスリーライツに、エースは質問した。会場のファンも知りたいだろう当然の疑問だった。

「ああ、俺たち、愛野と同高!」
「更に同クラ」
「星野、夜天、ちゃんと喋って下さい。同じ高校の同じクラスでした」
「へぇー、そうだったんだ。学校での美奈子はどんな子だった?」
「明るくて元気」
「騒がしいヤツだったよ」
「勉強は苦手そうでしたが、活発で運動が出来ると言うイメージでしたね」
「モテてた?」
「俺らはモテてたぜ!」
「どうだろ?」
「まあまあじゃないですかね?ところで最上さんは、愛野さんとどう言ったご関係で?」

エースの質問に答えると、スリーライツ側もエースに質問をぶつける。
互いに存在を知らない二組。本当の正体もまだ知らないままこのステージに立っていた。
その為、下手な事は言えない。観客もいるので尚更だ。

「元々美奈子が俺の追っかけをしていて、熱狂的なファンだったから面識があったんだ」
「あー、何か分かるわ」
「想像つくね」
「簡単に想像出来ますね」

学校で散々美奈子にまとわりつかれていたスリーライツ。エースと美奈子の出会いに納得した。
実際は怪盗エースの撮影に敵が現れたかと勘違いして美奈子がセーラーVになり乱入。そこで初めて互いに顔を合わせ、握手を交わした。

そんなこんなでエースとスリーライツは二組で美奈子との事で喋りを繰り広げる。あの二組が会話をしている。美奈子の事を話している。飛んでもない光景を目の当たりにしている。正に奇跡。奇跡以外の言葉が見当たらない。ファンは胸がいっぱいだった。
そこに、美奈子が現れる。

「みんなお待たせ~って、ちょっとぉ〜、誰がトイレ長いって?」
「聞こえてたか?」
「聞こえるように言ってたでしょ!もう!」
「違うのか?」
「違うわよ!衣装替え」
「そう言えばラフな格好になってますね?」
「ツアーグッズのTシャツ♪みんなも買って、来てくれてるわよね?」

美奈子の問いかけに会場がざわめく。

「それ、美奈子が描いたの?」
「そ、可愛いでしょ?」
「下手くそ!もうちょっと鮮やかに塗った方が映えるよ」

ライブグッズのTシャツは、美奈子のデザインした絵だった。
派手に色を塗ったつもりだったが、ライブ会場では寧ろまだ地味で、もっと思い切って華やかにした方が良いと夜天がアドバイスをした。

「温めといてあげたんだ。感謝しろよ」
「もう充分、あったまってたでしょ!」

美奈子とエースのやり取りに会場はまた爆笑に包まれる。

「さて、これで本当に最後の曲!最後はスリーライツとエースと三組でこの曲、“I’m gonna be an IDOL!”」

最初に歌った曲を最後にもう一度歌って締める。スリーライツもエースも美奈子もアイドル。それにアップテンポな盛り上がる曲。これ以上ない選曲だった。
美奈子の思惑通り、会場もエースもスリーライツも一体となり盛り上がった。
曲が終わると美奈子を真ん中に挟む形でスリーライツとエースが前に出てきた。会場から見て右にはエースと大気、左に星野と夜天。それぞれ手を取り合う。美奈子とエース、星野が手を握っている形になる。そして、手を上下しながら美奈子に合わせてお辞儀をする。それを数回繰り返した後、手を離すと美奈子はマイクを持つ。

「今日は、本当に本当に、ありがとうございました!」

最後の挨拶を気持ちを込めて一言一言発する。スリーライツとエースは会場のファンと一緒に割れんばかりの拍手をした。スリーライツ、エースに続いて美奈子もステージを後にした。
惜しまれながらもファーストライブは幕を閉じた。

ライブ終了直後、ファンは放心状態になり暫く茫然となっていた。
その後各々、SNSでこう今回のライブについて呟いていた。

“すごいライブだった”
“我々は奇跡を目撃した”
“美奈子すごい!ヤバい!”
“歴史が動くのを見た”
“美奈子に感謝!”
“美奈子、何者?”
“興奮しっぱなしの二時間だった”
“生きててよかった!”
“これから生きる理由が増えた”

美奈子のライブに行って奇跡を目撃したユーザーがこぞって興奮気味に感想を呟いた。
たちまちこの呟きは拡散され、“美奈子ライブ”が世界トレンドに入り話題となった。



ーーそして、次の日。

朝一から号外が出た。
見出しは“スリーライツとエース、愛野美奈子のライブで復活!”

このニュースに、ファンのみならず、業界関係者からもどよめきたった。
そして、スリーライツとエースには、美奈子の所属事務所に出演オファーが殺到。ライブを主催した美奈子自身にも注目が集まり、一体二組とどう言った関係なのかと憶測が色々飛び交った。その結果、何がどうなったのか、元恋人と言われ、何故かライバルとして売り出されることとなった。

余りにも反響が凄かったため、スリーライツはそのまま地球に留まり、芸能活動を再開。エースも無事復活する事となった。
二組とも成り行きで美奈子と同じ事務所に所属する事となり、マネージャーも美奈子と同じ人が着くこととなった。

美奈子は美奈子でこの二組を復活させた功労者として神のように祀られ、人気も上昇。どころか、早々に次のライブを熱望される。スケジュールもびっしり埋まり、向こう一年、休み無しだ。

ここまでの事は予想出来ていなかったが、やはり二組共まだまだ人気であることが証明され、美奈子は嬉しかった。
業界に入り、あちこちでスリーライツとエースの事をスタッフが噂をしていて、今も需要がある事を肌で感じていた。
今でもオファーは充分見込めると確信していた。
だから今回、どうしても消化不良のまま終えてしまった二組を出演させたかったのだ。

それがまさか自分自身もここまでの恩恵を受けられるとは、美奈子の頭脳では予想出来なかった。
ともあれ、美奈子も立派な人気アイドルになれたのだ。見返りなど求めていなかったが、忙しくなり美奈子は嬉しく思った。




おわり

20240319 ミュージックの日

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